実物展示とマルチメディアを活用した「ひらかれた教育資料館」

梶 田 幸 恵

 <<子どものこころをひきつける教育資料館>>

   この前は、奈良教育大学の教育資料館入れてくれてどうもありがとうございます。
  とてもむずかしかったけど、昔、おじいさんやおばあさんたちが使っていたつくえ、
  教科書などいろいろ見せてもらってとてもうれしいです。
   今度は山田小学校に大学生の人とわたしたちの勉強しているところを見に来てくだ
  さい。        越 智 真利枝

   大学を見せていただいてありがとうございました。資料館の中には、百年前の本と
  か写真とかあった。足こぎオルガンもあったし、小さな机もあった。本の字は、読め
  なかったけど、とても勉強になりました。
  どうもありがとうございました。
             大 浦 満 晴

 この手紙は、大阪府枚方市の小学生から届いたお礼状の一部です。資料館に展示された物や、奈良の鹿、漫画のキャラクターなど色鉛筆で描いたイラスト入りの楽しい礼状が、担任の先生がたの手で2冊の本に製本されていました。美術の授業研究によく協力してくださる山田小学校4年生の子ども70名ほどが、殿山一子校長先生と担任の先生がたに引率され、奈良遠足のときに本学の教育資料館の見学に立ち寄ってくれました。
 子どもたちは3年生の時に「おじいさん、おばあさんが子どものころの学校」について、学習したことがあり、展示されている古い教科書や写真に興味・関心をもって熱心に見学していました。
 いつもは静かな展示室ですが、このときばかりは、子どもの歓声でにぎやかになりました。空気がもれる「足こぎオルガン」に子どもたちは群がり、かすかな音がでると大喜びをしました。また、算数の数具である大きなそろばんや数遊びの手作り教具を動かすなど、自分の手で触れ、確かめて見ないと納得できないようで次々に試していました。
 横で見ていたわたしは、「壊れないかな」と内心はらはらしましたが、丈夫に作られていたのでこわれませんでした。なにより満足そうな子どもの顔をみると、実物に触れることのだいじさを教えられました。
 木で作られた古い机と椅子は、いまの子どもにも座り心地がいいようで、代わる代わる腰掛けていました。このような子どもの姿を見て、できることなら明治時代の図画教科書を使って、この場で昔の子どものように墨と筆で臨画の体験学習させると、いまの図画教育との違いに興味をもつのではないかと思いました。
 本学の教育資料館は小学生を対象に展示していないので、陳列ケースが高すぎて、子どもたちは背伸びをして一生懸命のぞき込んでいました。また、解説文もおとなむきに書かれているので難しかったようです。しかし、写真や習字、文集の表紙の絵や版画など展示物を通して、いろいろ情報をつかみ取ったようで、子どもたちは満足して教育資料館を後にしました。

<<大学院生と現職教員の「絵文字の授業」の交流>>

 子どもたちが教育資料館に立ち寄ってくれた1ヶ月後、今度は「美術科授業研究」を受講している奈良教育大学の院生6名と教官2名が、山田小学校を訪問しました。院生の代表が子どもたちに授業をしたあと、学級担任の先生の授業を参観できる場を、殿山校長先生が許可してくださいました。4年生と5年生の子どもたち、およそ 150名と先生方が体育館で、わたしたちを歓迎してくれました。
 はじめは、留学生の奥小風さんが、内モンゴルの写真と地図を使って、ふるさとの紹介をしたあと、「象形文字」の授業を子どもたちにしました。
 干支の水墨画12枚のカードと十二支の文字の篆書を見せて、子どもに絵と文字を組み合わせるように促しました。どの子どもも真剣なまなざしで、友達が前にでて、組み合わせるのを見守っていました。
4年生の子どもにとって、十二支の漢字は難しいのではないかと、心配しました。しかし、間違える子どもはいませんでした。
 奥さんは、漢字の歴史を子どもにわかりやすくかみくだいて話しました。大昔、中国で考え出された漢字が、日本に伝わり、いまのわたしたちのくらしの中に生き続けていることを、あらためて見直すことができました。
 この授業のクライマックスは、奥さんが太い筆に墨をたっぷりふくませ、大きな紙に「虎」の一字を書いて見せたことです。 150名ほどの子どもが固唾をのんで、奥さんの筆の動きを見守っていました。奥さんもこの授業のために、真剣に教材研究をしてきました。完成した作品を囲んで、虎年生まれの子どもたちは、大喜びしました。
 次は、山田小学校の西岡陽子先生が授業を引き継いでしてくださることになりました。
 体育館から教室に戻った子どもたちは、各自の机の上に硯を出し、ていねいに墨をすって準備をしました。
 西岡先生は、先ほど、奥さんが書いた「虎」の篆書の作品を黒板に貼り、子どもたちにじっくり鑑賞させました。
 「迫力満点」「ビック」「芸術」「リアル」「筆つかいがうまい」「はらったり、とめたりするところがきれい」など、子どもは感想をつぎつぎに発表しました。
 そこで、西岡先生は「あなたは ひらめき 絵文字の 天才!!」と板書しました。そして、子どもたちにいろいろ想像させて、子ども独自の絵文字をつくりだすように働きかけました。
 最初は戸惑っていた子どもも、西岡先生の支援でおもいきって毛筆をとり、ユニークな絵文字をつぎつぎ生み出しました。西岡先生は個々の子どもの良さを見つけて声がけをしたり、ときには、クラスのみんなに作品を見せたりしました。
 授業参観をしていた院生は、西岡先生の授業の展開のすばらしさに目を見張りました。ひとりひとりの子どもの表現をだいじにし、的確な言葉掛けで子どもの可能性を引き出す様子に感動しました。また、自由な発想で新しい絵文字を生み出した子どもの姿にも驚きました。

<<マルチメディアによる教育実践と実物展示>>

 すぐれた授業実践のようすをその場で見ていない人に文章でつたえるのは至難の業です。今まで写真や子どもの作品、学習指導案などをもとに授業のようすを、思い浮かべてきました。しかし、具体的に教師の言葉かけや、子どもの反応を知ることはできませんでした。
 図画工作や美術など表現に関する授業は、子どもの活動の過程をとくに重視します。幸いなことにビデオカメラが普及したので、授業実践の記録が撮りやすくなりました。今回、院生の奥小風さんの授業と西岡陽子先生の授業は、ビデオに収録することができました。できるだけ多くの人々に、みていただきたいと願っています。今のところ、このビデオテープは、わたしの研究室で保管しています。
 できることなら、将来的には、本学の教育資料館の一角にビデオライブラリーを設けて、すぐれた授業実践のビデオ資料を収集し、学内や学外の方にも見ていただくと、役立つであろうと思います。もうすでに、本学の教育資料館には、1994年度制作『奈良教育大学資料館ガイド』・1994年度制作『文集からみた奈良県の作文教育』・1995年度制作『大和地域の寺子屋の実態と往来物』のビデオがあります。膨大な収蔵資料の中から、テーマに沿って資料を精選し、わかりやすく解説されています。これらのビデオテープは、奈良県下の学校に配布されているそうで、「ひらかれた教育資料館」としての役割を果たしています。
 美術教育の方法史研究をするわたしにとって、本学の収蔵資料の中で、美術教育に関する資料が少ないことが気がかりです。昔の教育資料を収集するとともに、今の教育資料も収集し、比較研究をすれば、それぞれの特徴が明らかにされることと思います。
 先日、奈良県教育研究所の「研究発表大会」に出席し、学ぶことがたくさんありました。最新の情報機器を活用し、マルチメディアの特性を生かした授業実践研究の発表にひきつけられました。僻地の小学校6年生の子ども9名が、児童用のパソコン5台でインターネット機能や、音声、音楽、静止画像、ビデオ画像などを組み込んで、主体的に学習し始めたそうです。静止画像やビデオ画像を取り入れることにより、パソコンがノートや画用紙がわりに活用でき、これからは美術教育のみならず、学校教育そのものが大きく変わることが、予想されます。
 最新の情報機器に疎いわたしにとって、急激な変化に取り残されそうで不安です。そこで学生にパソコンの個別指導を頼んで、何とか努力していますが、子どもの吸収力にはおよびません。
 本学の教育資料もデータベース化が進められ、教育情報を多くの人々に提供できるそうです。研究者も現職の教師も、おとなも子どももインターネットを通して、必要な資料を居ながらにして、短時間で入手できるとは、夢のようです。
 しかし、インターネットでキャッチできる画像は、大きさが限定され、画質が今のところ問題です。今後、どんどん改良されるでしょうが、実物にまさるものはないと思われます。
 この文章のはじめに紹介した、山田小学校の4年生の子どもたちは、教科書の写真資料から昔の学校のようすを学んでいました。さらに、本学の教育資料館に足を運び、展示されている実物の教具、教材を実際に手で触れてみたり、動かしてみたりして、昔の学校のようすを実感することができました。
 昔の教育資料がどんどん廃棄される今日この頃ですが、できるだけ収集して、実物展示をできることが望ましいです。とくに子どもの美術作品と、教師の美術教育実践記録を併せて収集している教育資料館は、全国的にみても数が少ないです。できることなら、本学が率先して子どもの作品を収集して、データベース化し、マルチメディアを駆使して情報発信をするとともに、実物の作品展示ができるようになれば、と願っています。
    (美術科教育)


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