甦れ木造校舎、木製机・椅子!

谷 口 義 昭

1.木造校舎
 教育資料館には明治、大正、昭和に建てられた木造校舎の貴重な写真が展示されています。みなさんはどのような思いでこれらを見ておられますか。
 はじめに、私が通ったまなびやを紹介します。小学校のときは昭和初期に建築された木造校舎でした。床が高いので遊び時間に床下に潜って隠れん坊をしたり、廊下を走って怒られたり、木目に沿って雑巾がけをしているとき棘が刺さったりした経験があります。窓はもちろん木製のサッシであり、建て付けが悪くて、風が強い日などは雨水がしみ込み、すきま風が入り、ガタガタ鳴って先生の声が聞こえ難かったことを今でも懐かしく思い出します。
 中学校は新築間もない鉄筋コンクリート造でした。床はビニルタイルが張られていたため光が反射し、小学校の木造校舎に比べると明るく、清潔で近代的な感じを抱きました。しかし、梅雨の頃には床一面結露で滑って転倒したり、またふざけ合って壁にぶつかった時の痛さは格別でした。
 高等学校では、再び老朽化した木造校舎ですごしました。中学校まで禁止されていた土足が、ここでは許されていました。木材の床には油がしみ込ませてあり、その臭いと、歩行時の階段のたわみや振動、きしみ音が思い出されます。
 小学校の木造校舎では、相撲やソフトボールで遊んで壁や床の板をよく壊し、その都度先生に怒られました。しかし、短時間のうちにきれいに補修され、元通りになっていたのは驚きでした。
 このように、木造校舎は現在主流の鉄筋コンクリート造に比べて強度的には明らかに弱く、このことは大きな短所です。しかし、修復がいたって簡単だということは長所であり、逆に弱いからこそ校舎を大切にしなければならないことを教えることができ、この点では教育的効果があったのではないかと思います。
 作曲家の三枝成彰氏は、木造校舎に対して次のように述懐されています。「私は小学校、中学校、高等学校、大学と、まなびやは全て木造でした。そこには木の持つ暖かさ、優しさがありました。・・・
(中略)校舎が木造から鉄筋コンクリート造に変わってから、教育が大きく変わったと思います。日本の学校はまるで監獄のようで、堅牢ではあるが、殺風景であり、この変化が日本の教育の移り変わりによく似ています。現在、先生と生徒のコミュニケーションがうまくいかなかったり、生徒間のいじめが大きな問題でありますが、木造校舎の時代にはこのような問題はありませんでした。」
 周知の通り、このいじめは今日の教育課題であります。もし、校舎などの教育環境がこの原因の一つであり、環境を変えることで少しでも解決できれば、学校教育にとっては福音となるでしょう。尤も、いじめはそう簡単な問題ではないと思いますが。
 昨年、現役で立派に生徒を育成している木造校舎を訪問しました。十津川村立西川中学校です。写真1にその校舎の全景を、写真2に校舎内の廊下を示します。これを見たとき、私は30数年前にすっかりタイムスリップし、担任だった女の先生が教科書と白墨を脇に抱えられ、歩いてこられる姿が思い出され、何か胸に汲み上げてくるものを感じました。
 さて、学校建築から木造校舎が少なくなったのは、建築基準法によるところが大きいと言われています。すなわち、木造の建築物は、耐震性や防火性の観点から高さの制限を受け、木材で大きな建築物を建てることができなくなったからです。一方、近年に至って木造建築物の耐震性や防火性が科学的に立証され、建築基準法の一部が改正されたため、大きな建築物も木造で建築できるようになりました。
 これを受けて、文部省は昭和61年から木造校舎の建築を奨励し、次第にその数が増加しています。奈良県内でも木造で新築された学校を見ることができます。この木造校舎は従来と異なり、工場で加工された木材や規格にあった木材が使用されているため、狂ったり、腐ったりしなく、当然のことながら、前述の耐震性や防火性も全く問題ありません。したがって、新築の木造校舎は、私たちが抱いている昔の木造校舎のイメージとは幾分異なっていると思います。
 最近木造校舎に関する研究で、鉄筋コンクリートで学習している児童よりも校内でのけがや病気、いじめが少ないという興味深い報告があります。木造校舎のこれらの効用についてより多くの科学的な分析が待たれるところです。

2.木製机・椅子
 私は、5年前に某県で小学生用木製机・椅子の普及事業に参画し、その強度、機能性、デザインや加工法について研究したことがあります。検討の結果、強度は全く問題なく、また機械で複雑な加工もできるため、デザイン的にも良好であることが分かりました。現在この木製机と椅子は市販されています。
 試作した木製机と椅子は、小学校の低学年から高学年まで一つの机で間に合うように高さの調節を可能にしました。木材に傷が付かないように化学処理等で硬くできる技術は確立していますが、机の天板はあえて何の処理もしないヒノキの板材を用いることにしました。これは、傷が付きやすいことで、逆にものを大事にすることの大切さを教えたいという教育的配慮からです。なお、天板は簡単に取り外して交換することができるようになっており、入学から卒業まで児童たちが使った机の天板を、卒業するときその記念の一つとして渡すことができます。
 前項で述べた木造校舎の西川中学校では、木製机と椅子が使われていましたが、木造校舎と木製机、椅子が良くマッチしていました(写真3)。同校の生徒に使い勝手や使っている感想を聞きましたが、生徒たちには評判が良かったと記憶しています。

3.おわりに
 現在、小学校、中学校、高等学校、大学では机と椅子は金属パイプ製が大多数であり、木製を探すのが難しい状況です。一方、家庭ではどうでしょうか。一時期プラスチックが表面に張られた学童机がよく売れていましたが、現在では木製机と椅子が主流であると聞いています。将来、学校でも木製机と椅子が金属パイプ製の机と椅子に取って代わり、本学の教育資料館にこれらが貴重な教育資料として並べられ、また壁には鉄筋コンクリート校舎の写真が展示されている、そのような光景を夢見ています。
(木材加工)


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