しぐれの草子 概 略


 左大臣の子中将は、病気になやむ妹君の清水寺参籠を見舞いに行き、折からの時雨に雨具の用意なく困っていた十五、六歳の美しい姫君を見かけた。すぐに傘を貸し、ちょうど中将の妹君と局も隣りだったので、恋歌をかわした。そうして一夜の契りを結んだあと、わが邸にともなった。
 姫君は故三条中納言の女で、父母なきあと乳母や侍女の侍従にかしずかれているさびしい身の上だった。左大臣は、中将にこの愛する人のあることを知りながら、右大臣の女との結婚をすすめる。中将は心ならずも右大臣家に通うが、三条の姫君を忘れかね、夜の間しか姿を見せないので、右大臣夫妻は気をもんで呪詛した。そのために中将は右大臣邸で正気を失い、昼夜もわからぬ痴呆状態となった。
 当然、三条の姫君には手紙すら出さない日々が続く。姫君は失望し、かつ左大臣の北の方に邸を出るようにいわれて、侍従とともに内裏に住む知人丹後の内侍のもとに身を寄せた。内侍からの話を聞いた帝は、姫君に師走の仏名を聴聞するよう勧め、中将と物陰からの再会をさせた。
 正気を取りもどしたが、何も気づかぬ中将を御簾の外に置いて、帝は姫君をかき抱く。しかもそのまま召して、承香殿の女御とした。女御はやがて皇子を生み、后となって栄えた。
 中将は偶然の機会に、帝の愛する承香殿の女御が、かつて自分の愛した三条の姫君であることを知った。その悲しみに世の無常を感じて、中将はまもなく出家した。
 姫君の果報も中将の仏縁も、これは皆観音の利生であった。

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