総合教育課程

文化財コース

 私たちの周りには、古代遺跡や社寺、美術工芸品などの文化遺産が数多く存在しています。
 文化財コースでは、目で見、手で触れることのできる文化財を対象に、自然科学の諸分野、考古学、造形芸術、美術工芸史にわたる幅広い知識・技能と分析・保存・修復・復元する応用力を身につけます。さらに、市民にこの分野の知識を広く普及する人材を世界的な文化遺産に恵まれた奈良において養成することをめざしています。
 文化財コースでは、何よりも文化財あるいは考古学が好きであることが大切です。入学前に文化財についての具体的・個別的な知識をもっている必要はありませんが、吉文化財科学専修では論理的・科学的思考方法、文化財造形専修ではデッサンのような造形表現の基礎を身につけていることが望まれます。

◇古文化財科学専修

 近年の考古学の成果は、これまでの私たちの歴史観を次々と塗り替えています。年代測定、産地推定、古環境復元、材質・技法研究、遺跡探査、遺物保存などの広い分野において科学技術の成果が考古学に取り入れられるようになったからです。
 これらの分野は人文科学と自然科学を融合した新しい学際領域ですが、その専門的知識と技能を有する人材が不足しています。古文化財科学専修では、自然科学諸分野の古文化財への応用研究、文化財、考古学、美術工芸史などの学際的教育を追求することによって、歴史を科学の目で解明する新しいタイプの人材を養成します。
 授業では、考古学や自然科学の基礎のほか、物理・化学的手法や環境考吉学的手法による分析・解析など、自然科学をベースとした文化財科学の講義・実習を展開します。また、奈良県は古代遺跡や社寺などの歴史文化遺産に恵まれ、国立、公立、民間の文化財研究機関が集中しています。この利点を活かして、考古学・保存科学におけるフィールドワークも重視しています。
 卒業後の進路としては、埋蔵文化財調査員、博物館学芸員、関連研究機関の研究員、地域における生涯学習としての文化財普及員、などが考えられます。

◇文化財造形専修

 代表的な古寺の世界文化遺産登録に象徴されるように、奈良は日本を代表する世界的な美術工芸文化財の所在地です。
 文化財としての美術工芸の研究・教育は、従来、内容が理論に偏り、素材や技法への体験・理解が不足しがちでした。文化財造形専修では、美術工芸史に対する深い素養と、技法面や保存修復に関する充分な理解・能力をあわせ持ち、文化財の真価を現代社会に向けて発信し普及する力を備えた人材を養成します。
 授業では、文化財に恵まれた奈良をフィールドの中心におき、目で見、手で触れることのできる文化財を対象として、実体験を踏まえた講義・実習を展開します。
 また、伝統技法を現代に生かすことを目標に、陶芸をはじめとする造形の実習を重視するほか、地の利を活かした仏教美術史研究を機軸として日本の古代から現代までの文化財を学びます。さらに、保存・修復に関する基礎と応用を学習し、実地に修復の技術を体得します。
 卒業後の進路としては、美術館・博物館の学芸員、普及員(エデュケーター)や保存修復技術者、地域における生涯学習のリーダーなどが考えられます。

文化財コースで行われている研究
ルミネッセンス年代測定  熱ルミネッセンス法と光ルミネッセンス法により、土器・焼土・焼石など出土考古遺物の年代,火山噴火・断層活動などの地質年代を測定します。応用として土器・陶磁器の真贋判定をすることもできます。
 また、地震考古学に関連する断層の年代を淡路島の野島断層などをサンプルとして研究しています。
植生、環境、生業の復元  環境考古学的手法により、動植物遺体の分析や同定を行い、当時の植生、環境、生業の復元を行います。遺構の用途の推定など行います。
古代窯業技法の復元  日本の古代窯業技法を研究し、その成果を陶芸作品の創作に活かしています。陶芸を基礎として造形活動のなかに日本文化を伝承し、探求します。また、陶芸指導を通じて地域に根ざした生涯教育活動なども重視しています。
彩色文様の復元  東洋の伝統的な絵画習得法としての模写の技術を生かして、我が国の幅広いジャンルの美術作品にみられる文様の復元図を作成し、文化財の記録録保存の役割を果たす目的を持った、実技的研究を進めています。
仏教美術史  国際的・普遍的性格を備えて奈良の文化財を代表する仏教美術の意味や価値、さらにはその源流や伝播を、実体験から遊離しないよう注意しながら解明します。ファイバースコープなどの科学機器や歴史学・哲学にいたるまでひろく援用して研究を進めています。

主な授業科目とその内容
●文化財科学概論  自然科学の発展が文化財の研究にどのように貢献してきたか。また、遺跡の発掘に関わる自然科学の手法について幅広く概説します。
●考古科学  遺物の年代測定法や環境考古学分析をはじめ、文化財学と考古学に応用される自然科学的手法に関して具体例に即して講義します。
●保存科学概論  文化財の保存・修復に関する歴史や目的のほか、木製品・金属製品繊維製品など個々の文化財を保存するための原理・方法を具体的に解説します。
●文化財材料論  現代に生きる我々の想像を超えて多様な、先人の英知の結晶ともいえる美術工芸の素材・技法について、経験に即し、受講者自身にも体験させながら解説します。
●文化財と奈良  奈良の豊かな文化財を素材とした映像や資料を活用しながら、暮らしのなかの文化財を発見し、その意味・価値を考えます。また、その時代背景や東アジアなどとの関わりから現代や後世への伝承のあり方も考察します。
●日本美術史I  奈良が日本文化の中枢に位置した先史〜古代美術について、特に図像的・様式的展開の原動力となった古代人の宇宙観の変遷に焦点を当てながら概観します。


古文化財科学専修担当教員
長友 恒人 土器やテフラなどを試料として、ルミネッセンス法で縄文・旧石器時代の年代を測定しています。
金原 正明 古代の人々の生活の基礎となる農耕などの生業やとりまく環境の復元を研究しています
平賀 章三 地震の原因となる断層活動の年代を、熱ルミネッセンス年代測定法を用いて測定しています。

文化財造形専修担当教員
脇田 宗孝 日本の古代窯業技法を研究し、日本文化の基調となる陶芸をはじめとする造形活動に活用しています
大山 明彦 文化財にみられる彩色文様についての伝統的技法による復元図・復元模造品の作成をおこなっています。
山岸 公基 奈良をはじめとする日本各地やインド・中国の仏教美術を造形芸術学の観点から研究しています。
比留間 良介 美術教育のカリキュラム研究、絵画制作研究
西野 愼二 彫刻・木彫、塑造、石彫、ブロンズ



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