日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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20 そうですか、分かりやすく面白く書いたつもりですが。ーはい、それも分かります。でも、あの序文は不満です。ちょっと視聴者の皆様にご紹介します。先生はこうお書きになっています。「唱歌誕生は実は、アジア太平洋海域諸民族の近代歌謡史において一つの奇跡であった、と言わねばならない。」と。 こんなことを言われたのは先生がはじめてで、今でも他の誰も言いません。本当に日本の唱歌誕生は奇跡だったのでしょうか。失礼な言い方かもしれませんが、根も葉もないとまでは言いませんが、序文で人目を引くために大げさなことをおっしゃったのではありませんか。そう思って本文を読みはじめたのですが、先生はどこにも奇跡であった、という答えを書いていらっしゃらないじゃないですか。 番組の噂は聞いていました。ありきたりのお追従番組じゃないから、気をつけた方がいいよ、と忠告してくれる同僚もいたくらいです。でも、私はこういうのは好きですね。お世辞を言われることには慣れていますから。でも、よく気がつかれましたね。ーえ、やっぱりそうですか? 実は半分は自信がなかったのですが、番組の構成を考えている時、そうじゃないかなと。で、これを切り口にしようと。 正直言いますとね、あの序文は最後に書いたものです。本文は雑誌に連載したものをまとめたものです。それで、本文を書いてだいぶん経ってから新書にまとめる時に、新しく序文を書き下ろしたのです。しかもその時自分が研究で一番興味を持っ讃美歌の練習をするサモアの人々

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