日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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30関係しか見えない。太平洋にまで視野を広げると、同じ歌が讃美歌として実は日本だけでなくアジア太平洋に広く普及していたことが分かり、その一つが日本の「蝶々」なのです。 日本の場合は「蝶々」という言葉から分かるように、讃美歌の旋律に日本独特の伝統を踏まえた歌詞をつけることによって唱歌という新しい歌を作り上げました。ところがハワイやミクロネシアではそういうことは起こらなくて、讃美歌としてきた歌はあくまで讃美歌として歌っていきました。こういうのを見てみますと、唱歌という歌は本当によく出来た歌だな、よく生まれてきた歌だな、と感じるわけなのです。§8 アジア太平洋の讃美歌と唱歌ー「蝶々」の他にも同じような例はたくさんあるのでしょうか。 おっしゃる通り、問題は「蝶々」は特別な例なのか、それとも同じような例が他にもたくさんあって、「蝶々」は典型的な例なのか、ということです。結論から言いますと、「蝶々」は決して例外ではなく、同じような例がいくらでもあります。 日本で最初に作られた音楽の教科書である『小学唱歌集』を取り上げてみます。これは初編、第二編、第三編の三冊からなる教科書ですが、初編は一八八二年、明治十五年に出ました。その中にすでにいくつかの讃美歌の旋律が出てきます。有名

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