日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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41たようですから、音楽の得意な宣教師はどちらかと言うと例外だったのでしょう。西洋の歌を歌ったことのない、聞いたこともない人たちに教えたのですから、とりあえずはそう専門的な音楽技量がなくても最初のうちはなんとかやれたのでしょうね。 その辺りを伝道団自体がどう考えていたのか調べてみたことがあります。『ミッショナリーへラルド』という宣教雑誌の一八二四年十二月号にある記事に、ハワイの宣教師に向けた宣教師の伝道資格が書き出してあります。それによると宣教師は、人間についての幅広い知識を持ち、強固、忍耐強く、几帳面であるべきである、という書き出しで、音楽については、よい歌手であること、ただしあまり高い趣味は持たない事、なぜならそのような趣味は、歌唱がうまくいかなかったり、高級な曲ではない時に感情を害する原因になるから、と述べています。 つまりよい宣教師の資格として歌がうまい事を条件にあげていますが、専門的な歌手では困る、というのです。これを読むとなんだか音楽大学であまりに専門を学びすぎて小学校か中学校に赴任した先生が、生徒の下手さ加減に苛々している光景が浮かんできませんか。伝道団も同じことを恐れたのでしょうね。 実際に讃美歌を教えることを担当したのは、宣教師の奥さんだったよ宣教師に求められるもの・人間についての幅広い知識・自分の能力についての安定した、辛抱強い、一貫して謙虚な確信・尽きることのない忍耐・魂の価値の自覚・温和な態度・意志堅固・仕事が好きであること・良心的で、勤勉で、信心深いこと・活動的で、注意深く、時間に几帳面であること・健康であること・独身・どんな仕事もすすんですること・よい歌手であること、ただし高級な曲でなかったり、歌唱がうまくいかなかったとき、 やる気を無くす原因にならないように好みにうるさくないこと

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