日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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56方です。 そこの住民といいますか島民はほぼ百パーセント、クリスチャンです。彼らは教会を中心に社会生活をしています。彼らの生活は教会を中心に動いていると言っていいと思います。その教会に行きますと、礼拝で素晴らしい讃美歌の歌声を聞くことが出来ます。それはすでに有名なことで、いわゆる混声四部合唱で実に美しい声で、とても声量のある合唱が聞こえます。 私ははじめて実際に聞きまして、一瞬自分はオペラハウスにいて、オペラの中の合唱が沸き起こったのかと思ったくらいでした。この合唱の起源は十九世紀に島に伝わった讃美歌にあるわけですが、私も同じ疑問を持ちまして、教会に案内してくれた人が現地のコミュニティーカレッジ、日本で言えば短大で音楽を教えている若い先生で、彼に聞いてみました。 「サモアでは古い音楽はどうなったのか? キリスト教宣教師が讃美歌を持ってくる以前にあった古い音楽は今どうなっているのか?」 彼ははっきりと「分からない」と言いました。宣教師がやってくる以前の音楽がもう残っていない、というのです。もう私たちはそれについて知りようがない、と。 今私たちが歌っているこの合唱が私たちの音楽なのだ、と。そんな風に言っていました。小さな島ですので、古い音楽が伝承されずに、その代わりにキリスト教の讃美歌、あるいはそれから生まれた新しい教会音楽だけが島に残っているのです。

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