日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
5/73

12 はじめに 安田 寛  いきなり「地味ですね」と電話で取材してきている放送局の記者から言われた。「研究しているのは唱歌です」と答えた時のことであった。それはそうだろうけど、もう少し言い方があるだろうに、と内心不快。でも、確かに地味な唱歌の研究に取り組んでからもう何年経ったのか。まだ続けている。だからと言ってライフワークというほどの気負いもさらさらない。「まあ地味だから続けてこられたということもあるのでしょう」と、年がいもなくちょっとひがんでみた記者の取材申込みであった。 「でも長く唱歌と付き合っていると、普通の人が考えている唱歌とはちょっと違った面も見えてます。ですから他人の興味を少しは惹くのでは、と考えているのですが」と気を取り直して説明していた。 旧約聖書にバビロンの塔という有名な話がある。天にまで届くバビロンの塔を創ろうとした人間の不遜さに神が怒って、人々に別々の言語を与えてお互いに話が通じないようにした、という話である。実際、言語は英語が普及したとはいえ、まだまだそういった面が大いにあるし、通訳なしには意志の疎通が難しい現実がそこにある。どうも音楽には神は寛大だったらしく、音楽は言語と違って、今、世界のかなりの多くの人が音楽では共通言語を理解するようになっている。これはどうして

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です