日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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57 日本ではここまでのことは起こりませんでしたが、小さな島では日本で起こったことがもっと荒々しい、暴力的とでも言いたくなる形で起こっていると感じました。 讃美歌を歌うようになると古い歌が廃れてしまう、そういう歴史が起こったのではないかと思われます。そのことを分かりやすく表現するために、私は讃美歌以前と以後とではアジア太平洋の音楽史に活断層のように亀裂が走っている、と言っています。 §16 土地の古くからの歌との関係はーそれはまた随分悲劇的なお話ですね。 サモアの人たちはそうは考えていないようです。自分たちの特徴は柔軟性にあると言っていました。外国の文化を受け入れるけれど、それを自分たちに合うように改良していると。結局、私たち日本人と同じことを言っていると思いませんか。日本の場合も、そうは違わないと思います。言語は日本語が残りましたが、音楽は日本音楽が残らず普通の生活ではほぼ西洋音楽になってしまったのではないでしょうか。 今の若い人たちが歌っている歌を明治の人たちがもしも聞くことが出来たら、日本人だとは思わないと思いますよ。ーでも幕末の顛末なんかを見ますと、やはり西洋列強の強力な圧力を前にして変

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