日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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60 まず長い間キリスト教宣教師が禁止してきましたので、彼らは踊りたがらない。そして昭和九年と言いますとミクロネシアは日本の委任統治領だったので、日本の官憲が宣教師の政策をそのまま受け継いで在来の歌や踊りを禁止するということを続けていました。ですから田辺が在来の音楽を望んでもなかなかやってもらえないという状況がありました。 さらに田辺と同じ船に女性宣教師が乗り合わせていました。彼女はクサイで長いこと宣教活動をした当の本人でした。彼女は身をもって古い歌や踊りを禁止したという逸話が残っています。ある時軍隊から島民たちを踊らせろと銃を向けられたが、それでも彼女は頑として聞き入れなかった、そういう筋金入りの宣教師です。彼女が船の中で今度日本の学者が島に行って、長い間禁止していた踊りを踊らせて記録するという話を聞いてカンカンに怒ります。でも田辺はいろんな懐柔策を使って、無事なんとか古い歌舞の録音にこぎつけます。 その詳しい顛末は残念ながら今お話しする時間がありませんが、この例に見られるように、キリスト教宣教師たちははっきりと土着の歌舞を禁止していきました。その代わりに自分たちの讃美歌を歌うように仕向けていきました。仕向ける、という言葉が適切かどうか分かりませんが、簡単に言うとそういうことだったのではないでしょうか。 今、ミクロネシアの例をお話ししましたが、ハワイでも全く同じことが行われま

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