日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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63な讃美歌から唱歌が生まれてくるという過程を経なかったのでしょうか、そういう過程がどうして起こらなかったのでしょうか。 まさに、私が研究しているのはそのことなんですが、まだ最終的な結論、というか証明には材料が不十分だと思うのですが。今のところ思っていることは、今の問題は別の言い方をすると讃美歌の土着化という問題と密接に関わってくるわけです。讃美歌の土着化というのは、つまり、讃美歌というのはアメリカとかイギリスとかからくるわけですが、もともとそれは外来文化なわけですね。それを自分たちの文化に変えていくことが必要だと思うのですが、そのことを讃美歌の土着化というふうに呼んでいます。 まず、土着化で行われたのが歌詞を現地語にする。日本の場合で言えば歌詞を日本語にするということです。これは広く行われたわけです。つまり英語の歌詞をポナペならポナペ語、ハワイならハワイ語、サモアならサモア語に翻訳して現地の言葉で讃美歌を歌う。このことは広く行われたいわゆる讃美歌の土着化なんです。 ところがですね、歌詞の方は土着が行われたんですが、メロディの方は土着化が進まなかったわけです。全くなかったわけではないのですが、日本の場合でも、日本の古来のメロディを讃美歌に使う例がないわけでもないのですが、非常に少ないですね。一例か二例くらいしかないのです。このように、音楽の方を土着化するという動きはほとんど起こらなかった。

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