日本の唱歌と太平洋の賛美歌(安田 寛 著) -奈良教育大学 出版会-
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13そうなったのか。私が話そうと思ったのはこのことであった。 「実はこういう問題を考えたい時に、唱歌は格好の実験材料になります。結論を先に言いますと、音楽の標準語を作り、普及させたのはキリスト教宣教師だった、と言っていいと思います。 音楽の世界地図を塗り替えたのはキリスト教宣教師です。 ヨーロッパとアメリカ以外の地域に西洋音楽を広めたものがあるとするなら、それはキリスト教海外伝道運動をおいて他には考えられない。宣教師が世界の音楽文化を激変させ、音楽の世界地図を塗り替えたのです。宣教師はもちろん日本だけでなく、ハワイでも、ミクロネシアでも、それこそ世界中で活動しました。宣教師からみれば日本は世界中にある活動地の一つにしか過ぎないのです。このことが意味するのは、日本の西洋音楽は、宣教師が塗り替えた世界音楽地図の一部でしかなかった、ということなのです」。 「日本人が西洋文明を取入れて、それで音楽も取入れたのじゃないのですか?」と明らかに記者は不満げな口調であった。 僕はそこでちょっと語気を強めて、「唱歌が日本で誕生したのは奇跡のようにしか思えない、というのが僕の正直な気持ちです」と言い放った。 こうして、僕は少し重い気分で、「地味ですね」と臆面もなく言い放った地元の放送記者からインタビューを受ける日取りの相談をしていたのであった。

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