どんな情報が記憶に残るのか? -記憶を促す情報のタイプ-(豊田 弘司 著) -奈良教育大学 出版会-
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- 1 - どんな情報が記憶に残るのか? -記憶を促す情報のタイプ- 奈良教育大学 学校教育講座 豊田 弘司 はじめに 学校での授業では、児童・生徒は、教員の説明を聞いて、それを理解し、その結果が知識として残っていきます。その際、教員の説明を憶えようと特に意識はしないが、自然に頭に記憶として残っているのが、理想の授業です。このような記憶を偶発記憶と呼んでいます。反対に、憶えようという意図がある場合は、意図記憶と呼ばれています。授業の中で教員の説明を聞いているうちに、自然に学習が進んでいくために、教員は、説明の仕方を工夫し、どのような情報を提示すれば良いかを考えています。したがって、うまい情報の提示の仕方をすれば、自然と記憶に残っていくものなのです。 心理学では、人間が、ある情報に対して、何らかの処理をすると、その処理の結果が符号化として頭に残ると考えます。通常、心理学で行われる実験では、憶えるべき単語をひとつずつ提示します。そして、その単語を憶える際にどのような処理をしたのかによって、符号化の内容が変わります。たとえば、ある単語(イヌ)が提示された時、動物であると考えたり、昔、ペットとして飼っていたことがあったなと考えたりすると、「動物」や「ペットとして飼っていたという過去の出来事」が提示された単語(イヌ)に付加されます。このように憶えるべき単語に、他の情報が付加されることを精緻化(elaboration)と呼びます。そして、単語と精緻化によって付加された情報がともに符号化をつくるのです。

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