どんな情報が記憶に残るのか? -記憶を促す情報のタイプ-(豊田 弘司 著) -奈良教育大学 出版会-
6/8

- 5 - elaboration)と呼んでいます。そして、1つの記銘語から想起するエピソードの数が多ければ多いほど、その記銘語を想いだす可能性は高まります。また、そのエピソードが鮮明であればあるほど、記銘語を想いだす可能性は高くなります。 情動 さらに、楽しい旅行の想い出のように、過去のエピソードによって快な感情が喚起される場合や、親から叱られた出来事を想いだした場合のように、そのエピソードによって不快な感情が喚起された場合には、そのような快や不快な感情が喚起されない場合よりも記銘語を想いだす可能性は高まります。これは、記銘語から想起されたエピソードに伴う感情(心理学では、情動という表現をする場合が多い。)が検索手がかりとなるのです。 ただし、感情があまり喚起されないエピソードであっても、そのエピソードを効果的に利用できる人がいます。その人は、情動知能(emotional intelligence)が高い人です。情動知能とは、自分の感情をうまく表現できる能力、自分の感情をコントロールできる能力、そして、他人の感情を理解できる能力からできています。要するに、感情をうまく処理する能力です。この情動知能が高い人は、記銘語から想起されたエピソードの感情が弱い場合であっても、その弱い感情をうまく処理して、記銘語を検索するための手がかりとすることができるのです。このように、感情(情動)は、記憶にとって重要なのです。 人物 記銘語から想起されるエピソードにはいろんなものがあります。エピソードの種類によって、記銘語が想いだされる確率に違いがあるのでしょうか。想起されたエピソードに、自分以外の人物(家族、友人、知り合い等)が含まれている場合と、含まれていない場合で、記銘語の想いだされる確率を比較しました。その結果は、明らかに含まれている場合がその確率は高かったのです。人物は、有効な検索手がかりになるということです。 そこで、記銘語から人物を想起してもらう場合と、単語(言葉)を想起して

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です