物質をつくってはかる(梶原 篤 著) -奈良教育大学 出版会-
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- 3 - この分裂は超微細分裂(hyperfine splitting)とよばれ、その値(超微細分裂定数、hyperfine splitting constant)はスピン密度の絶対値に比例し、電子密度とも関連があるので、精密に測定することができればラジカルの詳細な電子構造を知る手掛かりとなります。化学反応を支配しているのは電子のふるまいなので、物質の電子状態がどうなっているのかを詳しく調べるのは、物質の性質や反応性を調べるうえでとても重要です。 このスペクトルを詳しく解析すると、まず図2の中に書いたような構造のラジカルができていることがわかります。波線で書いてある部分は、メタクリル酸メチルがいくつもつながっていることを示していて、およそ100個以上原料のMMAがつながるとこのようなスペクトルが現れることも分かっています。 この測定は60℃で行いましたが、測定する温度は変えることができます。メタクリル酸tertブチルを原料としたラジカル重合中に観測されるスペクトルをいろいろな温度で測定した結果を図3に示します。温度の変化に伴ってスペクトルの形が変化していることがわかります。この変化の様子を解析すると観察しているラジカル分子が溶液の中でどのような動きをしているかという動的挙動に関する情報が得られます。また、図2のMMAとはエステルの側鎖がメチル基からtertブチル基へと変化していますが、それに伴ってスペクトル線の本数も変わっています。

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