身体教育という考え方 -スポーツ文化からのアプローチ-(井上 邦子 著) -奈良教育大学 出版会-
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- 2 - では保健体育とは何を学ぶ教科なのか――これに答えるためには、色々な分野からアプローチすることができます。保健体育の分野は、運動生理学、運動学、保健体育科教育、スポーツ社会学、保健、体育哲学(原理)など様々な領域から成り立ち、色々な角度から論じることができます。その中で、本論では筆者の専門分野に即して考えていきたいと思います。 2.人間にとってスポーツとは? ところでスポーツとは人間にとって何でしょうか?保健体育の教科が、運動やスポーツを通じて学ぶことを特徴とするのであれば、私たちは運動やスポーツから何を学ぶのでしょうか。 ただ、ここで使う「スポーツ」という語ですが、広い意味で使うことを、まずはお断りしなくてはいけません。私たちは、「スポーツ」と聞けば、サッカーやバレーボールなどいわゆる「競技スポーツ」や「オリンピック競技」を思い浮かべることが多いと思います。こうした考え方は間違いではないですが、限定的な言葉の使い方といえるかもしれません。ためしに手元の国語辞典で、是非「スポーツ」という語彙を引いてみることをお勧めします。筆者の手元の辞書には「余暇活動・競技・体力づくりのために行う身体運動。陸上競技・水泳・各種球技・スキー・スケート・登山などの総称」1)とあります。競技をスポーツと呼ぶことに何の違和感がないにしても、余暇活動や登山、体力づくりなどをスポーツに含めて考えるということは、普段あまり意識しないかもしれません。国語辞典ですらこのようにスポーツを広くとらえています。さらにスポーツ人類学やスポーツ文化論などの専門分野などでは、舞踊や子どもの遊びなども、まずはスポーツ文化の領域に含めて考える傾向にあります。こうしてスポーツを広義にとらえることによって、より広い視野から人にとってスポーツとは何かを一層深く考えられると思われます。本論でもスポーツをこうした広義の意味に解釈することにしたいと思います。 それでは、話を元に戻しましょう。スポーツは人にとって何なのでしょうか。スポーツは人類の誕生とともにあると言われています。人が文字を使う以前のいわば先史時代から、広義のスポーツは行われていたと考えられます。言い換えれば、人がスポーツをしなかった時代はなかったといえます。

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