身体教育という考え方 -スポーツ文化からのアプローチ-(井上 邦子 著) -奈良教育大学 出版会-
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- 3 - 例えば、オリンピア祭典競技(古代オリンピック)は紀元前9世紀ごろから行われていたと考えられ、競走や幅跳び、円盤投げ、やり投げ、ボクシングやレスリングなどが行われていました。また、太古に描かれた壁画にも多くのダンスのモチーフが見受けられます。例えばアルジェリアのタッシリ・ナジェール高原にある壁画は、8000年以上前に描かれたと考えられているのですが、そこには躍動的なダンスが生き生きと描かれています。我が国でも古事記にはアメノウズメノミコトの踊りが出てきますし、日本書紀には当麻蹶速(タイマノケハヤ)と野見宿禰(ノミノスクネ)が取ったとされる「相撲」も出てきます。こうした事例は、いつの世もスポーツが人と共にあったことを物語っています。 現代の我々は、こうしたスポーツを体力の維持増進や、ストレス発散のために行うことが多いですが、伝統的なスポーツをみてみると必ずしもそうした日常的な機会に行ってきただけではありません。たとえば年に一度の機会――例えば田植え祭りや神社の秋祭り――に、スポーツを「儀礼」として行ってきた伝統があります。現在でも、毎年12月に行われる奈良の春日大社おん祭で、競馬や流鏑馬、相撲などが伝承されているのも、そうした事例の一つです。 では、こうした「儀礼の中のスポーツ」はなぜ行われてきたのでしょうか?こうした事例を見ることは「人にとってスポーツとは何か?」の一つの答えを与えてくれるはずです。 3.モンゴルの伝統スポーツ~相撲~ 「人にとってスポーツとは何か」――この問いを考えるために、筆者は、モンゴル国をフィールドとして研究を行っています。モンゴル国では、相撲が最も国民の人気を集める競技です。日本の相撲とは異なり土俵はなく、足の裏と手のひら以外が地面につけば負けとなります。土俵からの「押し出し」がないため、組み手争いが長時間にわかって繰り広げられることもあり、一つの取り組みがとても長いということが特徴です。 この競技が最も盛り上がる機会は、年に一度夏に行われる「ナーダム」という祭のときです。「ナーダム」というのは、モンゴル語で「遊び」という意味の言葉ですが、もともとは土地の神に祈りをささげる儀礼として行われていたと考えられています。このナーダムは、地方で勝ち抜いた者が、首都で行われ

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