身体教育という考え方 -スポーツ文化からのアプローチ-(井上 邦子 著) -奈良教育大学 出版会-
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- 5 - 4.身体を介した共感 モンゴルはよく知られているように、遊牧を文化の基盤として成り立っています。今日では、遊牧生活から離れ定住する人が増え、都市化が進みましたが、まだ暮らしの基盤には遊牧社会の伝統が残っています。こうした遊牧の暮らしは、家畜という生き物と厳しい自然(時には気温がマイナス30度を下回ることもあり、雪害など乗り越えなければならない自然災害が多く存在します)を相手に、生き抜いていかなければならない暮らし方です。すなわち、自分の努力だけではどうにもならないものばかりを相手にしなくてはならないということです。 そうした環境で自分と家族と家畜を守り、生き延びるためには、人のつながりが何よりも大切になるでしょう。遊牧社会では、自由気ままに土地を「流浪」して家畜を育てているというイメージがあるかもしれませんが、実はそうではありません。自分の家畜を放牧するエリアが大まかに決まっています。しかし、そのエリアが、年によって草の生え方が劣っていたりすることもあるはずです。そうしたときに、自分の土地に他家族を招き入れて、お互いが助け合って遊牧生活を成立させるということが日々行われています。また、馬の調教に長けた人や力持ちが他の家族に駆り出されて、遊牧作業を手伝うことは珍しいことではありません。これらは昔から行われている伝統的な助け合いの制度です。こうして、遊牧民はお互いを助け合って、受け入れあって暮らしを成り立たせてきました。 草原の中に立つ白いゲル(移動式住居)

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