葛水・葛葉の抗酸化能とその利用(杉山 薫 著) -奈良教育大学 出版会-
7/13

- 6 - 代表される合成抗酸化剤に分けられます。 従来、油脂の酸化防止にはBHAやBHTなどの合成抗酸化剤が用いられてきましたが、その発がん性に対する懸念から使用が控えられています。これまで、香辛料、茶をはじめとする嗜好品の抗酸化能については数多くの報告がありますが、葛の抗酸化能に関する報告は見られませんでした。私どもはこれまで油脂の酸化が問題とされる食品の一般的な形態である粉末系(固体)で、食品または食品成分、ならびに酒粕をはじめとする食品製造副産物の抗酸化能について検討してきました。その結果、粉末系での抗酸化能は水分活性(Aw)の影響を強く受けること、一般にタンパク質には高Aw領域で抗酸化能が認められること、特に、その活性が強いプロラミンの一種、ツェインでは主要構成アミノ酸の一つであるプロリンの寄与が多きいことなどを報告しました。今回は、葛水、葛葉の粉末系での抗酸化能を明らかにするとともに、それらをクッキーに添加したときの抗酸化能について紹介します。 2.水分活性について 食品中での水分子の存在状態には二つのパターンがあります。一つは全く束縛されていない自由な運動をしている状態(このような水分子は自由水と呼ばれています)、もう一つは、食品中の他の物質によって引きつけられ、自由な運動が束縛されている状態(このような水分子は結合水と呼ばれています)です。水分子が他の物質に引き付けられる力は、水分子と他の物質の距離が延びるほど弱くなります。このように、束縛が弱い水分子は準結合水と呼ばれ、結合水を引きつけている物質を中心に、結合水のさらに外側を取り巻いています。 自由水と結合水の違いは、こんにゃくを思い浮かべていただけるとわかりやすいと思います。こんにゃくの水分含量は96~97%ですが、こんにゃくをいくら絞っても水が流れ出てくることはありません。これは、こんにゃくに含まれている水が、こんにゃくの成分であるグルコマンナン(コンニャクマンナン)に強く吸着している結合水であるからです。自由水と結合水の違いは生物にとっては重要な意味があります。生物は水を摂取したとき、自由水は吸収できますが、こんにゃく中の水のように他の物質に強く結合している結合水を吸収することはできません。したがって、食品においては、微生物による腐敗を防止

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です