『源氏物語』がどのように継承されてきたかを学ぶ(有馬 義貴 著) -奈良教育大学 出版会-
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当然といえば当然のことですが、『源氏物語』を読んでいたのは、成立当時の人々や現代の私たちばかりではありません。平安時代に成立したとされる『源氏物語』は、以後、鎌倉時代や室町時代、江戸時代といった、それぞれの時代の人々によって、それぞれに享受されてきたものなのです。そのような長い享受の歴史は、現代の文学作品が持ちえない、古典文学作品ならではの要素であるといえるでしょう。せっかく古典文学作品について学ぶのならば、そのような“ならでは”の要素にも、もっと目を向けてみるべきではないでしょうか。 『湖月抄こげつしょう』という書物を例にとってみましょう。『湖月抄』とは、江戸時代に北村季き吟ぎんという人物によって著された『源氏物語』の注釈書です(1673年成立)。自説だけでなく、『細流抄』さいりゅうしょう(1510~1514年成立)、『孟津抄』もうしんしょう(1575年成立)といった書を中心に、『河海抄』かかいしょう(1362~1368成立)、『花鳥余情』かちょうよせい(1472年成立)等の古注釈書の説を取捨選択して付しており、それまでの諸注を集成したものとなっています。このような書物の存在を知ると、『源氏物語』が確かに各時代の人々によって読み継がれてきたものであるということを、少しイメージしやすくなるのではないでしょうか。

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