『源氏物語』がどのように継承されてきたかを学ぶ(有馬 義貴 著) -奈良教育大学 出版会-
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『湖月抄』(奈良教育大学図書館所蔵、913.361-14) また、写真にみえる文字にも注目したいところです。現代の私たちが日常的に目にしたり書いたりする文字とは字形などが大きく異なっています。古典の本文を現代の活字で読むことに慣れてしまっていると、それがもともとこのようなくずし字で書かれて伝わってきたということを見過ごしがちになるような気がします。 ちなみに、写真の『湖月抄』は印刷された書物ですが、江戸時代に印刷技術が発達して出版文化が形成されるまで、古典文学の本文などは基本的に手で書き写すことによって広まり、受け継がれてきました。そのような事実も、また、それゆえに生じうる誤写などのような現象についても、教科書などで既に現代の活字になおされたものばかり見ていると、やはり見落としてしまいかねないのではないかと思います。 3.『源氏物語』から新たに生み出されるもの さて、言うまでもないことではありますが、前節で紹介した『湖月抄』という書物は、『源氏物語』の注釈書ですから、『源氏物語』という文学作品がなくては成立しえないものでした。あるいは、『源氏物語』という文学作品があったからこそ、そこから新たに生み出されえた文化的産物であったという言い方も

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