『源氏物語』がどのように継承されてきたかを学ぶ(有馬 義貴 著) -奈良教育大学 出版会-
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できるでしょうか。 『源氏物語』から新たに生み出された文化的産物は注釈書の類ばかりではありません。例えば、『源氏物語』の代表的な場面を描いた絵画などがわかりやすいでしょうか。平安時代後期のものとされる国宝源氏物語絵巻などがよく知られるところですが、『源氏物語』の絵画化は、平安時代ばかりでなく、後の時代においても盛んにおこなわれました。江戸時代には庶民に親しまれた錦絵(浮世絵版画)としても大量に制作される2など、その時代の特色と結びつくような形で生み出されるものがあったことも注目に値するでしょう。大和和紀氏『あさきゆめみし』など、現代における『源氏物語』の漫画化などについてもそれに通ずるものと考えることができるかもしれません。また、『源氏物語』の戯曲化も、時代の特色などと結びつきつつ新たに生み出された文化的産物としてわかりやすい例の一つでしょうか。能や歌舞伎、現代演劇や映画等、それぞれにおいて『源氏物語』を素材とした演目、作品がいくつも生み出されてきました。 そのように、『源氏物語』は、古くから読み継がれてきたものであるというだけではなく、それぞれの時代において新たな文化的産物を生み出すもとにもなってきたものなのです3。例えば吉井美弥子氏が、「日本という場にかぎってみても、十一世紀初頭に誕生してから約千年のあいだ、『源氏物語』は時代ごとに、受容者層によって、実に多様なかたちで享受され、新たな意味を付与されつつ今日にいたっている」、「この物語について語ることは、ひいては日本文化とは何かという問題を照射することにもつながるだろう」4と述べているように、『源氏物語』の享受のありようをみることは、それぞれの時代における文化のありようの一端を捉えることにもつながりうるものではないでしょうか。 4.古典文学の継承に関する学習 従来の古典教育(学習)では、『源氏物語』などの古典文学作品について、古 2 中野幸一氏『フルカラー 見る・知る・読む源氏物語』(勉誠出版、2013年)などを参照。 3 立石和弘氏・安藤徹氏編『源氏文化の時空[叢書・〈知〉の森5]』(森話社、2005年)などを参照。 4 吉井美弥子氏「『源氏物語』という文化 序にかえて」(『〈みやび〉異説―『源氏物語』という文化[叢書・文化学の越境3]』森話社、1997年)。

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