人間ジオ宝(河本 大地 著) -奈良教育大学 出版会-
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品種との交配が行われましたが、よい結果が得られず、病気がちな牛や気性の荒い牛が増えてしまいました。そこで純粋な但馬牛を探したところ、先述の熱田集落に4頭だけ残っていたそうです。「田尻」号は、その血統を引く「あつた蔓」のうちの1頭でした。神戸ビーフ、松阪牛、近江牛、飛騨牛、前沢牛、宮崎牛、佐賀牛、米沢牛…。各地でブランド化されている黒毛和牛は、小代の地と人々が育んだこの偉大なる血統あってのものなのです。 現在、世界の畜産の主流は、少数の畜産農家が多くの頭数を飼う多頭飼育です。数百頭規模の経営も増えています。そうした中、小代ではまだ2頭や10頭くらいの規模で牛を飼う農家も見られます。棚田の畔で刈り取った草を中心に、自給飼料100%を維持している農家もあります。こうした畜産農家には、全国的に希少性を増している、「小さいからこその価値」が見られます。小代の畜産農家は、家族での小規模経営だからこそ1頭1頭の牛のことを本当よく理解して世話しているし、牛も飼い主のことをよく知っています。ここでは、「よい肉をつくる」だけでなく、その大前提である「よい牛を育む」ことが、毎日の暮らしの中でとても大事にされてきました。

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