世界の数学科授業・日本の数学科授業(舟橋 友香 著) -奈良教育大学 出版会-
3/9

2.他国との比較から浮かび上がる日本の算数・数学授業の特徴 さて、世界各国で数学科授業がどのように展開されているか、あるいはどんな内容が扱われているかみていくと、日本の中では「当たり前」と思っていたことが、他の文化の人にとっては「何か変わったことをしている」と映ることがあります。このように、異なる文化の下で行われている他国の実践との比較によって、自身の文化の中ではともすれば見過ごされてしまうような特徴が顕在化し、改めて自身の実践に関する理解を深めることができるところに、比較研究の面白さがあります。それでは、これまで他国との比較によって、日本の算数・数学科授業のどのような特徴が浮かび上がってきたのでしょうか。 日本の数学科授業の特徴が他国から大きく注目されるきっかけとなったものに、第3回国際数学・理科教育調査の付帯調査として実施されたTIMSS 1995ビデオ研究(Stigler et al., 1999)があります。この研究では、日本・ドイツ・アメリカの第8学年(日本では、中学校第2学年)の数学科授業が、合計231件ビデオテープに収録され、授業で扱われている数学的内容、教師と生徒の発話内容など様々な観点から分析がなされました。 その結果、各国に典型的な授業のパターンをみてみると、ドイツやアメリカのパターンと比較して、日本の数学科授業では、教師による介入の前に生徒自身による課題への取り組みが設けられ、それを基盤として全体での議論が行われること、及び要点を強調しまとめを行うという点に特徴があることがわかってきました。実際、シートワーク(授業における生徒の座席での学習)で生徒が取り組んでいた課題について、ドイツやアメリカの数学科授業では、「手続きの練習」に分類されるような課題に取り組んでいた割合が約90%であったのに対し、日本の数学科授業では、「新たな解の発見や思考」を促す課題に取り組んでいた割合が44%と、極めて異なる様相が示されています(図1)(Stigler et al., 1999, p.102)。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 3

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です