世界の数学科授業・日本の数学科授業(舟橋 友香 著) -奈良教育大学 出版会-
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ドイツのビデオサンプル及び教科書にみる「連立方程式」の扱いから、日本とドイツの相違点を次の二つに大別できます。 第1に、教材配列の相違から、扱う連立方程式の解き方、及び連立方程式を導入することの必然性に相違が見られる点です。日本では、文字式の計算や等式の変形について学習した後に「連立方程式」の単元に入り、加減法、代入法を学習します。そこでは、一元一次方程式で解くには複雑で不便な場合に、二つの文字を用いて解決することのよさを実感させることで、連立方程式が導入されます。「一次関数」は「連立方程式」後の単元として位置づけられており、ここで、連立方程式の解が一次関数のグラフと関連づけて学習されます。これに対し、ドイツでは、「一次関数」を「連立方程式」の前に配列し、一次関数のグラフと密接に関連させながら「連立方程式」を展開しています。一次関数を先に学習するため、2直線の関係をグラフで視覚化することができ、交点を探究することから連立方程式が導入されます。一次関数は=+という形で表されるため、=′+′との交点を求めるには等置法を用いることが能率的であることから、等置法、代入法、加減法の順で扱われていると考えられます。また、2直線の交わりから連立方程式の解の存在条件について学習し、練習問題では解がただ一組存在する問題、解が不定、解が存在しない問題のすべてについて扱うという相違点も見られます。 第2に、ドイツは指導の内容が、集合の概念に基づいて展開されている点です。例えば、教科書の例題では定義域が示され、得られた解を吟味した上で解集合が求められています。また、方程式と同様にして不等式もこの単元で扱っています。このような特徴は、現在の日本には見られません。 このように、同じ数学的内容でも、その扱いには日本とドイツで違いがあることがわかります。上述のような類似点や相違点が浮かび上がると、なぜそのような展開を日本の算数・数学科授業ではされているのか、改めてその価値を見直すことや、指導改善の指針を得られることの契機が生じます。この点に面白さを感じ、私は算数・数学科授業の国際比較という方法を用いて研究を行っています。是非みなさんも、世界に目を向け、自身が関心のあることについて、似ているところや異なるところを探してみてはいかがでしょうか。

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