身近なものからイメージを広げる絵画制作(狩野 宏明 著) -奈良教育大学 出版会-
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身近なものからイメージを広げる絵画制作 奈良教育大学 美術教育講座 狩野 宏明 1.はじめに―絵画の主題について― 古来、人間は様々な主題の絵画を制作してきました。西洋においては、古代ギリシャ・ローマの神話や、キリスト教の教義など、人々が信仰していた宗教世界を主題とした「神話画」や「宗教画」が多く描かれました。また、国王や貴族の「肖像画」、経済力を持った市民たちが注文した「風景画」や「静物画」も主要な主題でした。さらに画家たちは、これらの宗教的な主題や既存のジャンルには収まらない表現を求め、文学や実際の戦争や事件などを主題として、人間の深い感情や精神世界を描くことを試みました。このような主題の探求は、絵画を単なる現実の再現や模倣に留めることなく、絵画独自の表現を追及することを促し、抽象的な形態と色彩による作品や、現実とは異なる光景を描いた作品などが生み出されました。 現代においては、絵を描く際に何を主題とするか、つまり何を表すかについて、制作者は自由に考え決定することができます。これはとても幸福なことであると言えますが、同時に「いったい自分は何を描けばいいのか」という問題も生じます。自身の中にある漠然とした感情やイメージを、豊かに広げて絵を描くためにはどうすればよいのでしょうか。

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