身近なものからイメージを広げる絵画制作(狩野 宏明 著) -奈良教育大学 出版会-
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例えば、筆者の作品≪鹿しし踊おどりのはじまり≫には、鹿が描かれています。奈良に暮らしている人々にとって、街中に鹿がいることはすでに見慣れた風景になっています。鹿たちも車に気を付けながら道路を渡り、観光客から鹿せんべいをもらいます。 しかし、外から来た人にとってこの光景は、とても奇妙で珍しいものと感じることでしょう。日本では古来、鹿は神聖な動物と見なされ、特に奈良の鹿は、奈良時代に鹿島から春日山に神様が鹿に乗って移ってまいられたという言い伝えから、神鹿として大切にされてきました。そして現在は、奈良公園や春日山原始林の生態系とともに愛護されています。このことから奈良の鹿は、古代の神話や、人間が暮らす都市環境と自然との関係性を内在する象徴的な存在であると言えます。そして、この鹿の存在を通して見出された神話や、都市と自然との関係は、絵を描く上での重要な主題の一つとなりえるのです。 奈良の鹿に限らず、私たちの身の回りには、このような象徴的な構造を有しているものが多く存在していると考えられます。それゆえ、あるものや風景を奈良の鹿(筆者撮影)

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