身近なものからイメージを広げる絵画制作(狩野 宏明 著) -奈良教育大学 出版会-
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見た際に、それに興味を持ったり、独特であると感じられることが重要です。では、身の回りのものや風景に内在する象徴的な構造は、どのようにして発見することができるのでしょうか。 4.作品構想② 隠れた魅力を発見する 筆者は、絵画制作の下準備のために、自身の身の回りに存在するものや風景を観察する際、以下のような基準で取材をします。 Ⅰ.その土地にはありふれているが、他の土地では見られない特有のもの。(奈良の鹿など) Ⅱ.人間が現代の都市環境の中で生活する際に、目にすることが困難なもの、あるいはそれを見るための特定の場所が設けられているもの。 (手つかずの自然、動物園・植物園・博物館・美術館などに展示された動植物、標本、テクノロジー、芸術品など) Ⅲ.現実世界において物理的に隠されていて、見ることが稀であるもの。(工事現場であらわになる都市の地下構造、建築物の内部構造、人間 や動物の体内、骨格など) Ⅳ.日常にあふれているけれども、特に美的価値を持ったものとして注目されることが少ないもの、あるいは時代遅れであったり時代錯誤であるもの。 (ゴミ捨て場、廃墟、一昔前のテクノロジーなど) この世界には「もの」があふれていますが、美しいものとして見るべきものと、注視するに値しないもの、あるいは「このように見るべき」といった価値基準によって仕分けられていることがしばしばあります。身の回りのものや風景に興味を持ち、その独特の魅力を感じるためには、美しさに対する先入観を取り払い、一般的には美しいものと見なされないものにも注目してみることが、隠れた魅力を発見する糸口の一つとなると考えます。

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