身近なものからイメージを広げる絵画制作(狩野 宏明 著) -奈良教育大学 出版会-
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例えば、筆者作品≪鹿しし踊おどりのはじまり≫の背景には、廃墟のような建築物が描かれていますが、その古びた質感は、そこに流れた時間や記憶が刻み込まれている物質であると捉えることで、古代の遺跡と同様に、悲哀を含んだ美しさを感じることができると言えるのではないでしょうか。 5.作品構想③ イメージの飛躍 ―異なる文脈を結び付ける― さてここまで、身の回りに存在するものや風景に興味を持ち、その独特さを感じることで、隠れた魅力を発見し、絵画の主題となりうる要素を見出す方法について述べてきました。では、これらの要素から、実際の絵画制作における主題をどのように決定することができるのでしょうか。 筆者が作品≪鹿しし踊おどりのはじまり≫を制作した際には、その主題を決定するために、イメージの飛躍というべき現象が働きました。本作のタイトル≪鹿しし踊おどりのはじまり≫は、詩人で童話作家の宮沢賢治の短編物語『鹿しし踊おどりのはじまり』から引用しています。この物語を読んだことによって、それまで様々な場所で取材したものや風景に隠された魅力が次々と結びつき、絵画の主題を決定筆者作品≪鹿しし踊おどりのはじまり≫(部分)

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