身近なものからイメージを広げる絵画制作(狩野 宏明 著) -奈良教育大学 出版会-
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したのち、自分たちに危害を加えるものではないと理解し、ダンスホールのような舞台の上で踊り出すと想像できます。 このような発想は、突飛で奇妙なもののように感じられますが、身近なものを観察し続け、偶然読んだ物語の作用によって、本来異なる文脈に属していたもの同士が結びつき、イメージの飛躍が訪れた結果、筆者が描くべきであると感じる主題とヴィジョンが生まれました。 6.おわりに―世界を観察する力― 冒頭に述べたように、絵を描く際に自由に主題を設定することができる現代においては、何を描けばいいのか分からないと途方に暮れてしまうことがしばしばあります。これは絵画作品を制作し発表する制作者に限らず、美術教育において想像力を駆使して描く様々な場面で起こりうることであると考えられます。 絵画が視覚芸術である限り、頭の中にある漠然としたイメージや表現したいヴィジョンを、形と色で画面に描き出すことが必要です。その際に、自身の目の前に広がる世界を観察する力は、頭の中のイメージを明確にし、自身が表現したい主題を見出すための手助けとなります。自然、人工を問わず、多様なものがあふれる世界の中に、自身の興味を引き、独特な魅力を持つものを日々発見し続けることで、絵画の主題の決定に結びつくイメージの飛躍が起こる可能性が広がると考えます。 [ 参考文献 ] 谷川渥監修、小澤基弘、渡邊晃一編『絵画の教科書』日本文教出版、2001年 美術出版社編集部、藤原えりみ編集、増補新装『西洋美術史:カラー版』 美術出版社、2002年 奈良の鹿愛護会監修『奈良の鹿:「鹿の国」の初めての本』京阪奈情報教育出 版、2010年 宮沢賢治『鹿踊りのはじまり』(堀尾青史編集代表『日本児童文学大系 第18巻 宮沢賢治集』ほるぷ出版、1978年、pp.59-67所収)

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