富士山登山時によくみられる身体の変化-内科系疾患発症の予防の視点から-(髙木 祐介 著) -奈良教育大学 出版会-
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こと)を見物するために七合目や八合目で宿泊する際、あるいは、アルプスで縦走するために山小屋で宿泊する際、既に高山病になっていたとしたら、睡眠時の呼吸抑制の影響で高山病の症状が余計に悪化することもあります。また、体調が優れないコンディションでは、高山病にかかりやすいと指摘されています。高山病にならないようにするためには、ゆっくりとしたペースで登山をすることが第一で、さらに、登山前のコンディショニング、登山計画、体調管理に欠かせないウエアや雨具等の装備の徹底、事前の天候把握が重要になります。万が一、高山病の主な症状がみられた場合は、無理して登ろうとせず、ゆっくり休み、それでも症状が回復しない場合は、下山することがよい手段になります。下山すると、症状が回復します。 高山病にならないようにするためには、いくつかのポイントがあります。まず、「ペースをむやみに上げず、ゆっくり登る」ことです。普段の生活で使用する階段を上るペースで富士山に登ると、気圧低下の影響を多分に受け、呼吸器系・循環器系に対し大きな負担になり得ます。ですので、普段より遅いペースで登る必要性がありますが、それでも軽い頭痛やめまいは多くの人で生じます。次に、体調不良にならないよう、水分をしっかり摂取し、その分、しっかり排尿することです。発汗量の増加(活動量の増加や直射日光の影響)や呼吸数の増加(運動強度の増加や相対湿度の低下の影響)等によって体の中を循環する血液量が減るため、そうならないために水分摂取は欠かせません。体内に十分な水分量がないと、登山の活動力が低下するだけでなく、高山病を含め様々な症状をひきおこす可能性も考えられます。富士山登山時の水分摂取では、持参するものを摂取するわけですが、上り・下りで10時間以上もかかる行程ですので、相当な量の水分を背負って歩きます。「山小屋で買えばいい」と思われる方がいらっしゃいますが、山小屋で売られている飲み物は、街中で売られているものの約3倍の値段です。何本も購入するのは難しいですね。また、排尿についてですが、富士山ではトイレの使用料金が6合目あたりから、100円もしくは200円必要となり、使用したがらない方、また、小銭がなく我慢する方がおられます。排尿を我慢することは、不快感が続いたり、膀胱に痛みを感じるだけでなく、悪化すれば腎臓の機能の低下にもつながります。下山すれば治るわけではありません。富士山登山を計画する段階で、健康管理のために

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