富士山登山時によくみられる身体の変化-内科系疾患発症の予防の視点から-(髙木 祐介 著) -奈良教育大学 出版会-
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「排尿を我慢しない」ことを念頭におき、トイレはほぼ全て「有料」であることを認識し、「100円玉をたくさんそろえておく」ことをもポイントです。 高山病の症状の一つ、食欲不振になってしまうと体内ではエネルギー源が減り、体力が著しく低下します。そうなると、ペースは遅くなるどころか、転倒や転落、自力で下山することが困難になります。食べやすいものを持参することは登山において極めて重要なことです。口の中がパサパサになるものではなく、市販で売られる飲むタイプのゼリーや飴、キャラメル、また、さっぱりしたものや目がさめるような刺激のあるものとして、キュウリやトマト、柑橘類、あらかじめカットされたパイナップルやメロン、スイカ(食べ終えたあと圧縮できるようなパックに入れておくことをおススメします)、梅干や塩気の利いた食べ物、以上のような物ですと、食べやすいでしょう。十分な飲料水や食べ物を背負うために、富士山登山前は筋力トレーニング(主にスクワット)や持久力トレーニング(できれば、階段昇降)を定期的に行い、体力をしっかり向上させることも忘れてはいけません。 3. 体温に関すること-熱中症と低体温症 標高が100m上昇すると、気温は約0.6℃低下することが知られています。8月の中旬、富士山の麓の富士市では熱中症を心配するような気温(30℃以上)であっても、3,776mの富士山の頂上は、理論的には約20℃近く低い気温になります(図)。富士山の夜間では、気温は一桁台になります。それだけでなく、標高が上昇することに伴い相対湿度も低くなり、また、風が強いため、体感温度も下がります。一方、登っている際は運動負荷の増加に伴い体の中の温度「深部体温」が上昇します。富士山のように低圧低酸素環境下における登り運動では、私たちの生活範囲にある階段を上がることとは違い、非常に大きな運動負荷を受けます。防寒具を着た状態で強度の高い運動を行った場合、深部体温は大きく上昇します。深部体温の上昇に伴い、私たちの体は高体温にならないよう発汗量を増加させます。夏の暑い日は、じっとしているだけで汗をかきます。冬の寒い日は、たくさん運動すると汗をかきます。富士山の気温は、8月の場合、秋くらいを想定してください。風速にもよりますが、頂上では真冬の寒さになります。しかしながら、富士山登山は前述のように運動強度が非常に高い

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