富士山登山時によくみられる身体の変化-内科系疾患発症の予防の視点から-(髙木 祐介 著) -奈良教育大学 出版会-
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身体活動です。そのことから、たくさん呼吸し、たくさん汗をかきます。私たちが2015年夏に行った富士山登山調査では、7名の女性の呼気および発汗によって失われた水分量の平均値は2.94 リットルでした。発汗で濡れた衣服を着たまま、寒い環境下で登山を続けた場合、休憩の際の寒さ感覚は増大し、やがて、ふるえが見られるようになります。そのような状態は、低体温症という症状に近づいていることを示しています。富士山登山においては、防寒具、防水性の高い雨具はもちろんのこと、着替えも必ず持参する必要性があります。できれば、上り用と下り用です。「飲み物」、「食べ物」、の他に「着替え」も十分に持参する必要性があるということです。 4. 疲労に関すること 「疲労」の定義は、関係諸機関から様々なものが示されています。ここでは、「体が非常にだるくなり、動くことがしんどい状態」として説明します。この「疲労」状態では、富士山登山はもとより、日常生活においても危険を伴う可能性があります。例えば、「転倒する」、「持っていた物を落とす」、「誰かにぶつかる」などなど。それが、大自然の中、特に、低圧低酸素で低温環境下の富士山でなら、いったいどれだけ危ない状況になるか、想像できますよね。高山病や熱中症、あるいは低体温症等、前述で挙げた内科系症状、また、関節への負担や浮腫み等、整形外科系症状になる可能性が高い状況下で、しかも、過酷な環境条件と10時間以上の登山活動といった要素がそろい、疲労状態になりやすい条件といえます。普段からアスリート並みに筋力トレーニングや持久力トレーニング等を行っているならともかく、ほとんど何も準備せず富士山登山に臨む場合、上記の症状になりやすく、パーティー全体の歩行速度を落としたり、救助隊に出動してもらったり、最悪の場合、致命的な事故にもなります。私たちが2010年に行った研究では、富士山頂上において健常な若年成人男性の呼吸機能の著しい低下を観察しました。また2014年に行った研究では、富士山登山時に標高を上げていく際、ストレスによって反応するいくつかのホルモンの分泌量が大きく増加することを観察しています。これらの要因として、低圧低酸素、低温、運動負荷の増加、長時間の運動継続による呼吸筋力の低下、緊張や不安といった心理的負担が挙げられ、富士山登山時において登山者が受

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