富士山登山時によくみられる身体の変化-内科系疾患発症の予防の視点から-(髙木 祐介 著) -奈良教育大学 出版会-
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けるストレスはとても大きいものだと考えられます。 富士山だけでなく、標高1,000m~2,000m級の宿泊を伴うような縦走登山から、標高が500mにも満たない里山登山まで、登山は常に命の危険と隣り合わせの自然環境状況下で行う身体活動です。低い山でも急斜面を登るコースがあれば運動強度は急激に増加します。また、難所を越える際の緊張や集中にかかるストレスは非常に大きいものです。疲労状態で臨む登山ではもちろんのこと、登山中に受ける様々なストレスから蓄積された疲労は、転倒や転落、状況判断力の低下や地図の読解力の低下から起こる道迷いや遭難の危険性を高くさせます。このことは、標高が高い山でも低い山でも起こっていることです。特に、富士山登頂を達成したいならば、疲労しないよう「登山計画をしっかり立てる」、「お金をかけて装備を揃える(道具にお金をかけないと場合によって致命的な状況にもつながり得ます)」、「熟練した登山経験者と必ず同行する」、「ペースはゆっくり」、「休憩・飲食はこまめに取る」、「無理な行動、勝手な行動はとらない」、ことを念頭に入れてチャレンジしましょう。 5. おわりに 日本一高い場所から見る朝日は、どれだけ素晴らしいことだろう・・・。最近は、写真を公表する方々が多く、皆さんも「一度は見てみたい!」と思っていることと思います。私は富士山に7回登ったことがあり、そのうち1度だけご来光を見ました。とても感動しました、ですが、寒かった記憶の方が大きいです。「健康の維持増進のために身体活動を行う」人は多くみられますが、富士山登山、とりわけご来光を見るため夜間に行う富士山登山は、「健康によい身体活動」から大きくかけ離れています。むしろ、命の危険と隣り合わせの危険な条件下で10時間近くに及ぶ身体活動と考えられます。富士山登山を「楽しそうなイベント」あるいは「思い出づくり」として臨むのではなく、アルプスでの山行前のように、しっかりと計画(できれば山小屋泊を伴う日中登山での1泊2日)し、情報収集し、万全な装備を整え、熟練者を含めたパーティーを結成して事前のトレーニングを十分に積む、そして、当日は決して自分勝手な行動をせず、ゆっくりペースの維持と安全第一の考え方をもって臨む。緊張感をもった確認を怠らない。このようなプロセスを踏むことで、ようやく安全

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