学習評価入門(北川 剛司 著) -奈良教育大学 出版会-
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Ⅳ 所有論的学習評価の先へ―学習評価の課題― これまで伝統的に、学力を所有論でとらえるという考え方が普及しています。つまり、「学力」は個人の所有物であり、一旦所有してしまえば、どのような文脈や条件の下であっても変わらないとみなされます2。 この所有論的な考え方に対しては、近年、再考が迫られています。「問題解決力」という学力を例にすると、所有論でいうところの「問題解決力がある」という状態は、どのような問題に対してもそれを解決する力がその個人にあるということになりますが、それは通常ありえません。 理科の教科内容に関わる問題解決は得意だが、数学の教科内容に関わる問題解決はそれほど得意とはいえないというように、あるいは、このチームであればいつもうまくいくが、そうでないとうまくいかないというように、複雑な学力であるほど、それが発揮される文脈や条件を考慮に入れる必要があります。 従来、学力を所有論的にとらえた学習評価が盛んに議論されてきました。所有論的学力観の下で、知識の量や単純な技能のような「見えやすい部分」以外に、複雑な学力のような「見えにくい部分」をいかにして評価するかという議論はすでにかなりの蓄積があり、それに関する成果も多数挙がっています。 だが一方で、実生活や実社会にある複雑な諸問題に対応できる力につながっていくような学力を評価しようとする場合には、所有論的なとらえ方ではなく、文脈や条件等を考慮にいれた学習評価の方法が、今後、一層探求されていく必要があるでしょう。 2 身近な例として、アニメ作品「ドラゴンボール」では、「戦闘力」という数値がそのキャラクターの「強さ」を表すバロメーターとして用いられますが、これは「強さ」に対する所有論的なとらえ方になります。つまり、「戦闘力」が自身より低い相手であれば、それがどのような相手であっても、また、どのような文脈や条件においてでも、戦闘すれば「勝てる」という考え方です。

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