外国語を学ぶことの意味-日本語学習者の学びの姿から-(和泉元 千春 著) -奈良教育大学 出版会-
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3 表2.教育段階別日本語学習の目的(初等教育・中等教育・高等教育) 『海外の日本語教育の現状 2012年度日本語教育機関調査より』 2.外国語学習の目標と言語教育観 2-1.普遍的な言語規範の獲得を重視した外国語学習 あなたは外国語学習を行う際、何か目標を立てていますか。日本語を学ぶ学習者にこの質問をすると、「上級レベルの文法をマスターしたい」、「日本語で専門語彙を覚えたい」、「漢字を500覚えたい」など、文法や語彙の知識量で目標を示す人がいます。また、「日本語で新聞が読めるようになりたい」、「日本語でメールが書けるようになりたい」、「日本人とおしゃべりできるようになりたい」など、言語スキルを示す人もいます。また、ただ漠然と「日本人のように日本語が使えるようになりたい」と言う人もいます。ここで言う「日本人」が誰を指すのかという議論も必要ですが、仮に「日本人」のモデルのような人が存在するとすれば、そこでの目標は「母語話者になること」であると言えるでしょう。 1980年代の外国語教育では、コミュニカティブ・アプローチという教授法が全盛でした。この教授法ではコミュニケーション能力の育成、つまり目標言語のスキルや運用力を高めることが外国語学習の目標とされました。それまでの外国語教育では文法や語彙などの言語体系の知識獲得が重視されていたので、そこに言語運用の適切さに関する知識をも含んだコミュニカティブ・アプローチはとても画期的なものでした。このアプローチが基盤とする言語能力観は「コ

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