外国語を学ぶことの意味-日本語学習者の学びの姿から-(和泉元 千春 著) -奈良教育大学 出版会-
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4 ミュニカティブ・コンピテンス(Canale & Swain1980)3」と呼ばれます。コミュニカティブ・コンピテンスは、「文法能力」、「社会言語能力」、「談話能力」、「ストラテジー能力」という4つの下位能力に分類されます。一つ目の「文法能力」というのは、言語を文法的に正しく理解し使用する能力で、文法、語彙、発音、文字・表記が正確であることに焦点が当てられています。二つ目の「社会言語能力」というのは、相手との関係や場面に応じて、いろいろなルールを守って言語を適切に使用する能力で、相手や場面によって適切なスピーチスタイルや話題、非言語行動を選択することに焦点が当てられています。日本語の場合、友達とおしゃべりするときと、知らない大人に話しかけるときでは、例えば文末の表現が変わります。また「知らない人」と言っても、それが子どもの場合だったら「です・ます体」ではなく普通体を使うでしょう。三つ目の「談話能力」というのは談話を管理し、組み立てることができる能力で、会話の開始、継続、終了のしかた、あいづちの打ち方、話題の転換や展開のしかた、発話の順番とりの適切さに焦点が当てられています。例えば、日本語はあいづちが多い言語だと言われますが、どのタイミングでどのような言語形式のあいづちを使うかには適切さのルールがあります。四つ目の「ストラテジー能力」というはコミュニケーションがうまくいかなくなったときに、自分や相手の発話をコントロールして修復する能力です。例えば、ある単語が分からないとき、別の言葉で言い換えたり、例を出して説明したりします。また外国語の場合には、分からない単語を母語で伝えたり、聞き手に助けを求めたりするでしょう。このように、私たちは様々な観点から言語使用の正確さや適切さをモニターし、意識的、無意識的に言語形式やスキルを操作しています。この考えのもとでは、言語能力というのは外から個人の中に蓄積されていくもので、一度獲得してしまえば様々な状況に適用可能だと考えられています。そして、その普遍的な正確さと適切さは「母語話者」の言語使用が規範となっています。つまり、目標言語の母語話者のような言語使用の普遍的な正確さと適切さを身につけることが外国語学習の目的であり、目標であるという考え方です。この考え方は現在でも外国語学習の主流となっています。 2-2.異文化間的側面を重視した外国語学習 一方、1990年代に入り、コミュニカティブ・コンピテンスとは異なる観点で外国語学習の目的や目標をとらえる必要性も指摘し始められました。 3 Canale, M.& M.Swain (1980). Theoretical bases of communicative approaches to second language teaching and testing. Applied Linguistics, 1/1, 1-47.

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