主体的・対話的で深い学びの実現を意図した美術科学習の構築-俵屋宗達筆「舞楽図」(醍醐寺蔵)の鑑賞を事例として-(竹内 晋平 著) -奈良教育大学 出版会-
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3.授業計画「構図の魔術-俵屋宗達筆『舞楽図』を鑑賞する-」(全2時間)「舞楽図」を鑑賞する中学校美術科の授業としては、使用されている画材である岩絵具等を視点に伝統文化への理解を深める等をねらいとした先行実践がすでに報告されています7)。このような先行事例を踏まえながら「主体的・対話的で深い学び」を実現するための<個別的理解>、および<俯瞰的理解>を意図した鑑賞授業を考えてみたいと思います。まず、生徒が「舞楽図」の鑑賞を通した<個別的理解>として学ぶことができる素材や技法などの特徴に関する事実を2点あげてみます。①「金地は背地であるとともにそれ自体一個の空間を意味している」8)鑑賞対象の「舞楽図」では、背景が金箔になっています。そして、松と桜、大太鼓等が描かれていることのみが、空間を認識できる手がかりになっています。もし、手がかりとして配されているモチーフを手で隠してみると、舞人たちの位置関係がわかりにくくなるでしょう。背景を一面の金箔にすることで、不思議な空間感を生み出しているといえます。②「フォルムの再生の魔術」9)屏風に描かれた舞人たちのフォルムは宗達のオリジナルではなく、いくつかの先蹤から得たものです10)。つまり、他の「舞楽図」から舞人を選択して切り取り、自身の作品の中に再配置しているのです。宗達によって熟慮された再配置による構図は、①で述べた効果と相俟って舞人たちのリズミカルな動きを生み出しています。このような事実を生徒たちが<個別的理解>として実感するためには、単に鑑賞作品を眺めるだけでなく、身体活動や操作、言語活動等の<鑑賞的体験>によって主体的に作品と関わることが望ましいのです。例として、宗達の表現過程を追体験するなどの活動が考えられます。具体的には「舞楽図」の全体像を鑑賞する前に、切り取られた紙の舞人たちを生徒たちがミニチュアの屏風の上に配置してみます。紙の舞人ですから、金地の上を動かしながら構成を考えることができます。生徒たちが構図を熟考した後は、グループで互いが考えた構図について話し合います。「一番、リズムを感じるのは誰の構図ですか?」等、対話のテーマにつながる発問を行うとよいでしょう。そして、生徒自身が主体的に構図を考えた後に初めて「舞楽図」の全体像を鑑賞すると、緻密に計算さ

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