主体的・対話的で深い学びの実現を意図した美術科学習の構築-俵屋宗達筆「舞楽図」(醍醐寺蔵)の鑑賞を事例として-(竹内 晋平 著) -奈良教育大学 出版会-
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れた余白や空間の効果を実感することができるでしょう。鑑賞を終えた後には、<俯瞰的理解>へと方向づける問いを投げかけ、生徒の思考を促すことが必要です。これまでに述べてきた<鑑賞的体験>を経た後であれば、「あなたが今日の学習で見つけた、構図の意味とは何ですか?」「配置を考えることは、美術の中でどんな意味がありますか?」等の問いが考えられます。このような発問によって生徒の思考を美術全体や美術と人との関わりに向けていくことが、中学校美術科における【深い学び】につながっていくのではないでしょうか。これまでに示した「構図の魔術-俵屋宗達筆『舞楽図』を鑑賞する-」の授業計画を学習展開(全2時間)として以下に整理します。主な学習活動★生徒の反応指導内容第一時・俵屋宗達と「舞楽図」、舞楽の概要について知り、作品を鑑賞することに関心をもつ。・「舞楽図」の左隻(左側)を手がかりにして、金地の全体に紙でできた舞人を並べることによってリズムを感じる構図について考える。★「どこに置くかによって見え方がかわるね」「余白を残した方がいろいろ想像できるよ」<個別的理解>・グループ内で互いの構図を交流し、リズム感をもたらす理由について話し合い、気づいたことを文章でまとめる。・「舞楽図」の左隻(左側)のみを提示し、作者や描かれた時代について説明する。・金色の画用紙でできたミニチュア屏風の全体に舞人を貼りつける<鑑賞的体験>を提案する。・話し合いで出された意見を板書して全体化するとともに、次時は全体を鑑賞することを予告する第二時・前時に考えた各自のミニチュアの屏風をもとにして、リズム感をもたらす構図について想起して「舞楽団」を鑑賞する。★「止まっている絵なのに舞っているように見えるよ」「何も描かれていないところは、地面かな、空中かな」<個別的理解>★「並べ方を変えるだけで見え方が全く変わるのが構図の意味」「並べ方、置き方ってとても大切なこと」「構図や並べ方を工夫すると美しくなったり便利になったりするのかな」<俯瞰的理解>・俵屋宗達も他の屏風から舞人を選んで並べることで作品をつくったことを説明した上で、「舞楽図」の全体像を提示する。(拡大図版、または醍醐寺で実物の鑑賞)・生徒が記述・発表した意見を「今後の美術科学習につながる視点」「美術と人との関わりについての視点」によって全体化し、各自が気付いた美術の意味や価値を共有するようにする。「舞楽図」の舞人は、どのような配置でしょうか? 最もリズムを感じるのは誰の構図ですか? あなたが今日の学習で見つけた、構図の意味とは何ですか?

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