「大いなるメリットのための“小さな”犠牲問題」とは?-社会学的研究の一視点-(渡邉 伸一 著) -奈良教育大学 出版会-
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3 多くの人が病気にならずに済んでいる一方で、必ず副作用のために別の病気で苦しむ被害者を出す、という問題が存在しています。そもそもほとんどの薬が程度の差はあれ、そうした性質を持っているのです。電車内では最近「不審な荷物を見つけたら教えて下さい」という放送をよく耳にするようになりました。単なる犯罪だけでなく、いわゆるテロにも警戒するためでしょう。これは大きくいえば、安全保障にかかわる問題です。日本には日米安全保障条約に基づき、米軍が駐留しています。その目的には日本を他国の侵略から守ることもあるとされていますが、その米軍基地は特に沖縄に多く存在しています。このため沖縄では米軍による様々な事件や事故が多発しているのはよく知っているでしょう。安全保障や防衛は全ての国民にかかわる問題であるのに、その矛盾や犠牲は日本の一部の地域に集中しているといえます。電車は、言うまでもなく電気で動くものですが、電気も、家庭や学校そして生産現場において欠かせないものです。その電気を作る発電所の中で最もリスクの大きいものと言えば、原子力発電所でしょう。原発は、一度重大事故が起これば、取り返しの付かないほどに国土破壊的であることは、東日本大震災で私たちが経験している最中です。その原発は、各都道府県にまんべんなく設置されているのではなく、米軍施設と同様、特定地域に集中して建設されています。今度は、視点を学校に移してみましょう。日本の学校行事には運動会があります。運動会の種目として、組み体操は花形として定着してきました。組み体操が盛んに行われるようになった理由には「団結力が身につく」「感動や達成感を味わわせたい」という教員側の思いがあるとされます。しかし、近年、組み体操が10段にも及ぶなど巨大化し、難度も高くなり、生徒が骨折するなどの事故が相次ぎ社会問題化しました。また、「ムカデ競争」もそうです。足をつないで集団で走るこの競争では、運動会やその練習中に2014年度で482人もの生徒が骨折しています(朝日新聞2015.10.15)。大いなるメリット(「団結力」「感動」「達成感」)ための犠牲は学校現場でも発生しているのです。「団結力」「感動」等が大事なのはその通りだとして、骨折者まで出してやるのは間違っています。ですから、止めた学校もありますし、段数を減らすなど怪我をしない方法が検討されています。このように現代社会においては、「大なるメリットの

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