幼稚園4歳児は他児の喧嘩やいざこざにいかに介入するのか(松原 未季 著) -奈良教育大学 出版会-
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今回は、①幼児が教師と共に介入する事例と、②幼児のみで介入する事例、③教師のいざこざへの援助が幼児の介入に与える影響について紹介させて頂きます。個人情報保護のため、園名と調査時期は伏せ、事例に登場する園児の氏名は全て仮名とします。 2.幼児が教師と共に介入する事例幼児が、教師と共に介入する場合には、当事者の幼児への注意・助言をしたり、いざこざの状況を代弁したりします。2-1.当事者の幼児への注意・助言事例1201X年9月20日テイタは遊戯室を出るときに、突然ユキホの手を引っ張った。すると、ユキホはびっくりして泣き出してしまった。そのやり取りを見ていたナナは、教師を呼んだ。教師がテイタにユキホの手を引っ張った理由を尋ねると、テイタは「(ユキホと一緒に)お弁当を食べたかった」と説明した。すると、教師はテイタに手を引っ張るのではなく、言葉によって一緒に食べたいという気持ちを伝えるように注意した。教師がテイタから離れると、ナナが来て「テイタ君はいやなことされたらどう思う?」と尋ねた。テイタはうつむきながら「嫌や」と答えた。すると、ナナはテイタに「じゃあ今度からはしちゃだめだよ」と言った。テイタは、罰が悪そうな表情で黙って頷いた。 事例1では、テイタとユキホのいざこざを直接的に解決に導いたのは教師でした。しかし、教師が対応した後、ナナはテイタに注意しています。ナナは、この場面でいざこざの原因を作ったのはユキホの手を引っ張ったテイタであるということを判断した上で注意しており、当事者のユキホの立場やいざこざの状況を理解しながら葛藤場面に介入していたと言えるでしょう。 また、この事例で見られた「テイタ君はいやなことされたらどう思う?」という相手を自分に置き換える注意の仕方は、教師が幼児同士のいざこざの場面で頻繁に用いるものでした。ナナは教師の注意の仕方を模倣して葛藤に介入していた可能性があります。

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