新しい目で宇宙を観る-X線天文衛星の開発-(信川 正順 著) -奈良教育大学 出版会-
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えられていて、宇宙物理学・天文学の研究者らは宇宙X線観測に対して否定的でした。しかし、米国の天体物理学者のリカルド・ジャッコーニらは1962年にX線観測用ロケット実験を実施し、太陽系外からのX線を初めて検出することに成功しました。「自然は我々の想像を超える」ことを示したのです。このようにX線天文学を切り開いたリカルド・ジャッコーニは、2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。 最初に発見されたX線天体はさそり座の方角にあったので、さそり座X-1と名づけられました。ロケット実験では数分間しか観測ができません。そこで、長時間観測できるようにX線天文衛星が軌道上に投入され、たくさんのX線天体が宇宙には存在することがわかってきました。はくちょう座X-1をはじめとするブラックホールや、おとめ座銀河団に含まれる高温ガスなど天文学における大発見が続きました。 3. 日本のX線天文学 日本はその初期からX線天文学に深く関わってきました。1970年代にはロケット実験によるX線観測を始め、X線天文衛星「はくちょう」(1979年)、「てんま」(1983年)、「ぎんが」(1987年)と次々に打ち上げに成功させました。そして1992年には、史上初の X線CCDカメラを搭載したX線天文衛星「あすか」を打ち上げました。「あすか」は高エネルギーX線帯域で撮像分光可能であるという画期的な性能によって、巨大ブラックホールの強重力場の検証、宇宙背景X線放射の起源解明、原始星からのX線放射の検出など、宇宙物理学において重要な発見を数多くもたらしました。これにより、X線天文学は日本のお家芸とまで言われるようになっていたのです。 大発見を続けるX線天文学分野では、日米欧でそれぞれX線天文衛星を打ち上げる準備をしていました。1999年7月に、米国が空間分解能に優れた「チャンドラ」を打ち上げました。同年12月には、欧州が大きな望遠鏡を搭載した「XMMニュートン」を打ち上げ、稼働が開始されました。両衛星は次々に新しい観測結果を挙げ、残る日本の「ASTRO-E」の打ち上げを待っていました。「ASTRO-E」に搭載するX線マイクロカロリメータは従来の装置の10倍以上の分光能力を持ち、これによりX線天文学は次の段階に飛躍することが大いに

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