新しい目で宇宙を観る-X線天文衛星の開発-(信川 正順 著) -奈良教育大学 出版会-
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期待されていました。 そして2000年2月、開発に携わった研究者・開発者が見守る中、「ASTRO-E」は鹿児島県内之浦宇宙観測所から打ち上げられました。地球周回軌道のため、次に上空に戻ってきた際に衛星を起動させることになっていました。しかし、「ASTRO-E」は戻ってきませんでした。ロケットの不具合により、軌道投入に至らず、太平洋に墜落したと考えられています。 打ち上げの失敗は日本だけでなく、世界の天文学にとっても損失でした。日本は、多くの人々のサポートのもと、「ASTRO-E」と同じ観測装置を搭載した「ASTRO-E2」に再挑戦しました。開発は順調に進み、とうとう2005年7月10日、無事打ち上げに成功しました。軌道投入後は「すざく」と名付けられ、着々と観測の準備を進めていました。しかしその矢先、主力装置であったX線マイクロカロリメータが打ち上げから1ヶ月で停止してしまい、もう一歩のところで実観測にたどり着けませんでした。 私が大学院に進学し、研究者の道を歩み始めたのはこの頃でした。X線マイクロカロリメータは喪失しましたが、「すざく」にはこれ以外に、世界最高性能のX線CCDカメラと硬X線検出器が搭載されていました。大学院生の頃の私はX線CCDカメラで良い成果を出すため、較正作業を一生懸命行っていました。その甲斐あって、X線CCDカメラは宇宙空間の放射線にさらされる過酷な環境の中で世界最高性能を保ち続けました。私の専門である天の川銀河の中心領域の観測研究も、「すざく」のX線CCDによって大きく発展したのですが、このお話は別の機会にしたいと思います。 4. 「ASTRO-H(ひとみ)」が証明した超精密分光力 「すざく」の打ち上げからほどなく、日本は「すざく」の次を担う「ASTRO-H」の開発を開始しました。「ASTRO-H」は、X線マイクロカロリメータ、X線CCDカメラ、硬X線撮像器、軟ガンマ線検出器の4種類の観測装置を搭載し、日本の科学衛星の中で過去最大級の大きさになりました。 私はX線CCDカメラとソフトウェアの開発を行いました。衛星搭載の開発は、試作品であるBread board model(BBM)、実機と同等品であるEngineering model(EM)、そして宇宙へ打ち上げる実機 Flight model (FM) と、段階を経

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