新しい目で宇宙を観る-X線天文衛星の開発-(信川 正順 著) -奈良教育大学 出版会-
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セウス座銀河団を観測して取得したX線スペクトルです。従来のX線天文衛星のデータと比べると、その優れた性能は一目瞭然です。これまでは観測できなかった輝線の微細構造や、希少元素の輝線もはっきり捉えることができるようになったのです。このデータから、遠くにある銀河団と、我々の身近な太陽が同じ化学組成であることがはっきりと明らかになりました。この結果はNature誌に掲載されています。 5. 再び立ち上がる〜「XRISM」の挑戦 「ひとみ」を失ってから、私を含め日本のX線天文学者は失意のどん底にいました。しかしX線マイクロカロリメータという素晴らしい観測装置で宇宙を再び観たいという強い思いから、新しいX線天文衛星「XRISM」の計画を始めています。搭載する観測装置はX線マイクロカロリメータとX線CCDカメラで、2021年度末に打ち上げる予定です。「ひとみ」の事故を繰り返さぬよう、開発体制が大幅に見直されました。 私も「ひとみ」の経験を生かし、今度こそX線天文衛星を成功させるため努力しています。そして、今度こそ「新しい目」であるX線マイクロカロリメータを使って、宇宙の謎を解き明かしたいと思っています。 図3 ASTRO-H「ひとみ」で取得したペルセウス座銀河団のX線スペクトルデータ[1]。青色で示したデータは従来のX線天文衛星によるもの。従来のデータでは区別できなかった鉄(Fe)の微細構造やクロム、マンガン、ニッケルなど希少元素の輝線も明確に識別できることがわかる。

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