なぜドイツでは緑の党が「成功」したのか-「68年世代の党」としての視角から-(西田 慎 著) -奈良教育大学 出版会-
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政策を掲げています。ここでは党の政策の変遷と実態を、党の綱領を中心に見ていきましょう。 前述のように1980年の結党時に最初の連邦綱領が制定されました。その前文において、「エコロジー的」「社会的」「底辺民主主義的」「非暴力的」を党の4大基本理念に掲げ、原発の即時停止、西ドイツ連邦軍(国防軍)解体、すべての外国軍隊の撤退、NATOとワルシャワ条約機構即時解消、東西欧州への非武装地帯の創設等を訴えていました。もし西ドイツ連邦軍を解体して、他国から侵略されたらどうするのか。彼らが提唱していたのが、「社会的防衛」です。万一西ドイツが他国に占領された場合、住民は占領者に対して徹底的に非暴力、不服従、非協力を貫き、占領が利益にならないということを相手に悟らせて撤退させるというものでした。今から見ると少々ユートピア的な考えに立っていたことは否めません。 この連邦綱領がその後20年以上に亘って効力を保ってきたわけですが、98年に連立政権に参加すると、「社会的防衛」と現実の政策の整合性など、矛盾も出てきました。そこで2002年3月のベルリン党大会で、「未来は緑」と題された新たな連邦綱領が採択されました。その前文では、「我々の価値」として「エコロジー」「自己決定」「公正の拡大」「生き生きした民主主義」の4つが挙げられ、さらに「我々は同じ強さでもって支持する」ものとして、「非暴力」と「人権」が続いています。旧綱領の4大基本理念の内、「エコロジー的」のほか、「社会的」は「公正の拡大」に、「底辺民主主義的」は「自己決定」と「生き生きとした民主主義」に受け継がれたと言えますが、「非暴力」は実質的に4大基本理念から外され、一歩後退した感があります。そして前文に続く7つの章では具体的な目標と取り組みとして、脱原発と代替エネルギーの早期開発、選挙権年齢の引き下げ、投機規制のための「トービン税」への支持等が挙げられています。 新綱領で大きな議論を呼んだのは、「非暴力」理念が後退・変容したことです。旧綱領では「非暴力」原則は、「無制限かつ例外なしに有効」として西ドイツ連邦軍解体や「社会的防衛」を要求していたのですが、新綱領では「法治国家として、また国際法上、正当な暴力の使用は常に排除さ

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