仮名書道はジグソーパズル-仮名文字を使った表現方法-(北山 聡佳 著) -奈良教育大学 出版会-
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3.いろんな仮名を使うのはなぜか では、なぜ一度にいろんな種類や書き方を使うのでしょうか。皆さんは、ノートに書くときに、文字の書き方を選ぶとしたら、どれを選びますか。おそらく、最も簡単で書きやすいものだけを選ぶでしょう。しかし、そうしないで、いろんな種類の文字を覚えて使っているということが、当時の書き手の美的センスや表現力を表しているのです。 再び『関戸本古今集』を見てみましょう。図4は、「なつとあきと」と書かれています。最後の「と」は、「登」が元である変体仮名です。「ト」の音が2回ありますが、どちらも同じ形の「と」である場合を想像してみてください。全体の形に変化が少なくなります。こんなふうに片方を変体仮名に変えるだけで雰囲気が変わるのです。 図5で、もう少し広い範囲を見てみましょう。□で囲んだところは、どちらも「かなしき」と書いています。それぞれ元の漢字を交えて書くと、右上は「可那しき」、左下は「可なし支」となり、変体仮名を交えて表現しています。「か」と「し」は同じ文字ですが、「な」と「き」は文字を変えて、違う雰囲気にしています。さらに文字の大きさやつなげ方、字と字の間隔にも変化をつけて、見た目はまるで違うもののように工夫しています。「し」は私たちが普段使うものとかなり違いますね。 実はこれが、仮名書道のおもしろいところです。現在では、普通文字を書くときは、整えて書くために同じ大きさを目指します。同じ文字は同じように書きます。小学生の頃、四角い升目に大きさをそろえて、細部まで注意して書いていたこともあるでしょう。 絵画を描くことを思い浮かべてください。画面にバランスよく、たくさん描くところや、濃く塗るところなど、変化をつけますね。大きい静物を描いたり小さい静物を描いたりすることもあるでしょう。簡単に言えば、仮名書道は、それと同じです。画面に入れるのは「文字」と決まっていますが、画数が多い図4 図5

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