希望を持って前向きに、技術の将来について語り合う技術科の授業(世良 啓太 著) -奈良教育大学 出版会-
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3.技術教育の方向性 絶え間なく進展する技術に併せて多様化する技術の光と影に、世の中の人々がうまく寄り添っていくためには、どのような資質・能力を技術教育で養う必要があるのでしょうか。1つの糸口として、2000年以降の技術教育の世界的な潮流である技術リテラシー(Technological Literacy)の考え方があります。技術リテラシーとは「社会を支える技術を理解し、活用し、管理・運用する能力」と定義されており、1994年に技術教育スタンダードの開発を目的として設立されたTfAAP(Technology for All Americans Project)において全てのアメリカ国民が持つべき素養として掲げられました3)。その後、技術教育に関わる世界最大の学術団体であるITEA(International Technology Education Associ-ation)が2000年に刊行したStandards for Technological Literacyにおいて民主主義国家を支える市民が必要なリテラシーとして技術リテラシーを定め、その充実が技術教育の目標として標榜されました4),5)。職業教育の色が強かった技術教育に対して技術リテラシーの考え方は大きなインパクトを与え、日本を含む世界各国の技術教育が転換するきっかけとなりました。2017年告示の学習指導要領解説技術・家庭編では、例えば以下のような記載があります。 『技術は,その発達が社会の在り方を大きく変えてきた一方で,多くの人々の必要性により技術の発達が促されるといった社会と相互に影響し合う関係をもつ。そのため,技術が生活や社会,環境等に与える影響を評価し,適切に選択したり,管理・運用したりすることのできる力は,技術の発達をよりよい方向へと向けるために必要であり,今後ますます高度化,システム化される技術に支えられた社会を生きる国民に求められる力の一つである。』6)『生活や社会における人工知能の活用について,人間の労働環境や安全性,経済性の視点から,その利用方法を検討するなど,研究開発が進められている新しい情報の技術の優れた点や問題点を整理し,よりよい生活や持続可能な社会の構築という観点から,未来に向けた新たな改良,応用について話し合わせ,利用者と開発者の両方の立場から技術の将来展望について意思決定させて発表させたり,提言をまとめさせたりする活動が考えられる。』7)

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