障害のある子どもや人の“こころ”を理解するために(富井 奈菜実 著) -奈良教育大学 出版会-
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AちゃんとBちゃん、検査の基準に従えばどちらも「できた」と評価することができます。ですが、はじめから自信たっぷりのAちゃんと、徐々に取り組めるようになったBちゃんのでき方には“違い”があるといえます。発達診断は、このような一人一人の“でき方”に着目し、なぜBちゃんはすぐに取り組めなかったのか、なぜ徐々に取り組めるようになったのか、というBちゃんの“こころ”に迫ることを一つの目的としています。そして、この時に私たちは発達段階というものを想定し、その子どもがどんなふうにものごとをとらえ、働きかけているのかを明らかにすることを目指します。 2. 発達段階って? 発達段階も馴染みがない言葉かと思いますが、こちらは何となく想像がつくのではないでしょうか。発達段階というのは、ある質的な特徴をもった発達の時期のことをいいます。次のエピソード(2)をもとに具体的に説明したいと思います。主人公は、そーちゃん(3歳4か月)という男の子です。(名前は仮名) 【“2つの関係”を楽しむそーちゃん】 食事の場面での出来事です。そーちゃんは丸めたおしぼりを右手に隠し、握りしめた左手とともに「どーっちだ!」と私に聞きます。残念ながらおしぼりは彼の右手には収まっていません。私は容赦なく「こっち〜〜」と彼の右手を指さしました。そーちゃんは「ピンポーン!」と右手を開きました。素直なそーちゃんに(ちょっと意地悪してごめんね…)と思いましたが、延々と続けられる「どーっちだ!」問題に、私はおしぼりを隠した右手をさし続けました(なぜか毎回右手に隠すのです)。そーちゃんもその都度「ピンポーン!」と応じていました。しかし。突然「ブーー!」と反応を変えてきました。「えー!なんでやねん!」と思わずつっこみます。当たっているのに、その後はずっと「ブーー!」です。(く…仕返しか…)と思っていると、「おとーさんにもやってや」とそーちゃん父の登場。早速そーちゃんは右手におしぼりを隠して「どーっちだ!!」とおとーさんに問います。おとーさんは彼の右手を指さしました。すると「ピンポーン!」です!!私は「なんでなん!もう一回やって!」とお願いし、また彼の右手を指さしました。「ブーー!!」です。次のおとーさんは「ピンポーン!」です。私には「ブーー!」、おとーさんには「ピンポーン!」…。そんな息子を見て父は「よくわかってるやん」とノリがわかる息子を褒めていました。

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