障害のある子どもや人の“こころ”を理解するために(富井 奈菜実 著) -奈良教育大学 出版会-
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田中ら(3)によれば、3歳頃は「一つのものを二つの対比的な概念で判断し、そのレベルでものごとを多面的にみることができるようになる」時期です。また「3歳になると、その営みがいっそう確かになり、多面性や多彩さを備えてきます。二つの対比的な関係概念である2次元を、姓−名に見られるように結合させたり、男−女に見られるように区別したり、2歳−3歳に見られるように発展的にとらえたりすることができ始める」、「わかっていて2次元を区別し、それを入れかえて結合させたり、置き換えたりする柔軟な自由度と間接性がそなわってきています。幼いユーモアの誕生です」と述べています。 このように、3歳頃は物事を対比的な概念でとらえるようになるという発達的に質的な特徴があらわれる時期なのです。田中らはこの時期を“2次元形成期”とよんでいますが、そーちゃんの2次元の世界は、豊かに広がっています。みぎのて(おしぼりを隠している手)−ひだりのて(そうでない手)を区別し、「どーっちだ!」と2次元的問題(?)を出します。この「問題」も問い−答えという2次元的関係が成立しています。また答えに対して「ピンポーン!」−「ブーー!」という2次元での評価を行います。さらに自由度の高さを感じるのは、「ピンポーン!」から「ブーー!」への切り替えと、とみーさん−おとーさんを区別した2次元の関係に、とみーさんには「ブーー!」、おとーさんには「ピンポーン!」と別の2次元を結びつけているところです。「どーっちだ!」問題という単調な遊びを、2次元という関係の中で豊かに展開しているのです。そしてその意味合いがわかって面白がれること、まさに幼いユーモアの誕生という表現がピッタリではないでしょうか。 今回は3歳頃の発達の時期について説明しましたが、田中らの理論では幼児期には1歳半頃、2〜3歳頃、4歳半頃、5〜6歳頃、7歳頃にそれぞれ質的な特徴をもった発達の時期(発達段階)があると考えられています。 3. 発達段階って本当にあるの? 発達段階を想定し発達診断を行うことは有効であるとされ、実際に多くの臨床場面(障害児保育や障害児教育などを行う現場)で実践されています。しかし、これらはあくまで経験論的に語られているものであり、実際にそうした発達段階が存在するかどうかは十分に証明されてきませんでした。そこで、私た

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